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□第一章
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「折原…臨也、だよね?悪いけどさぁ、死んでくんない?」


一瞬、何が起きたのか分からなかった。

スッと何かが宙を切る音が聞こえたと思ったら、突如右腕に感じた鈍痛。
何かと思って腕を触れば、生暖かい自身の血液が左の手のひらに付着した。

一体何故こうなった?

話は今から数分前へと遡る。

仕事で池袋にやって来た俺、折原臨也は、用事を済ませ、帰路につこうと池袋駅へと向かっていた。

時刻は午後8時。
辺りは暗くなり、月明かりと街灯だけが足下を照らす。

軽快な足取りで進んで行くと、前に人影が見えた。

ここは裏路地だけど、人の出入りが少ないかといったらそうでもない。

俺は気にせずに歩き続けた。

前に進むにつれて人影もだんだんとはっきりしていって、それはついに俺の前に現れた。

顔はフードを被っていたためよく見えないが、身長から考えてまだ子供だろう。

俺はその子供の前で立ち止まった。
いや、正確に言えば、先に進めなかった。

その子供が、道の真ん中で両手を大きく広げ、通せんぼをしていたからだ。


「…あのさぁ、ちょっとどいてくれる?」

「…………」

子供は何も反応せず、ただその場に立ち尽くす。

「君みたいな子供はもう家に帰る時間だ。補導されても知らないよ?」

「…………」

やはり、何の反応も見せない。

俺はため息をつくと、道の端の子供の手がとどいていない所を見つけ、そこから先へ進もうとした。

その瞬間、どこから取り出したのか、子供は少々大きめのカッターナイフを俺に向かって突き出した。

カッターナイフは月明かりを反射して先端部分が白く輝いた。

「…へぇ。俺に何か用でもあるのかなぁ?」

俺が聞くと、子供は顔を上げた。
今までフードに邪魔されて見えなかった子供の表情がだんだんと見えてくる。

その子供は、その小さな外見には到底似合わない位の怪しげな、妖艶な笑みを浮かべていた。

「折原…臨也、だよね?」

子供は笑みを絶やさずにカッターナイフをグイッと俺の喉元の方へと突き出す。

「そうだけど」

俺が言うと、子供は新しいおもちゃを見るように輝いた、それでいてどこか大人びた表情を浮かべた。

「悪いけど、死んでくんない?」

は、と口に出す前に、子供はカッターナイフを構えて俺に向かって来た。

あまりに突然の事で反応が遅れた俺は、よけたものの右腕に傷を負ってしまった。

生暖かい液体が腕を伝い、ズキズキと痛む傷を左手で押さえる俺を、子供は楽しそうに見ていた。





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