長編

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「――…サッカーがやりたいだけなんだ」



良く晴れた日、病室に光が射し神童を照らす。
ゴホゴホッ……と嫌な音の咳をしながらぎゅう、と自分の胸に手を当て拳を強く握り締める。


「サッカーがしたいだけなのに……、それすら、出来なくなってしまった」


すぅ…と静かに涙を溢しながら外を眺める神童。


俺はあまりにも無力だった。




静かに、感情すら失ってしまったかの様に涙を流す神童をただ呆然と立ち尽くして見つめる事しか出来なかった。



「どうして、神様は俺を嫌うんだろう……」





俺は気付かない内に自分も涙を流していた。
ボロボロと涙が次から次へと頬を伝って床に落ちる。



全部、全部俺に降ってくればいいと思った。

神童を苦しめるもの全部。
俺に降ってきたらいいのに。





俺は覚束ない足取りで神童の元に近付いた。
真っ白で太陽の光を忘れた小さな手を握り神童を見つめる。




「大丈夫だから」




力強く神童の手を握った。神童が此方を見る。




「絶対に、大丈夫だから。俺がいるから。だから…だから、また…一緒にサッカーやろう」



…あのフィールドに立とう。




神童はうん、と力なく笑った。


その華奢な体に背負うものは大き過ぎて。
いつか、神童の体が耐えられなくなって壊れてしまうんじゃないかと、もう二度とフィールドには立てないんじゃないのかと、本当は恐怖で一杯だったのかも知れない。



でもあの時の俺達には、そうするしか出来なかったんだよな。







…あの日交わした約束を、俺はまだ覚えているよ。



だから神童。




―――俺の前からいなくならないで…














(2012.2.17)

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