長編

□04
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「助かったよ、ありがとう!」
「いえ…君、それ…」

脇に抱えたサッカーボールを指差すと、彼はああ、これ?と少し嬉しそうに微笑んだ。

「僕サッカー部なんだ!って言っても最近は行けてないけどね…」

しゅん、と項垂れる彼に自分の仲間がいたと嬉しく思ってしまった。

「お、俺もサッカー部なんだ…」


控えめにそう言うと先程の表情が嘘みたいに、ぱぁぁと明るく輝く。
コロコロと変わる表情がまるで天馬の様で心がぽかぽかと暖かくなった。


「俺、雨宮太陽!宜しくっ」
「俺は神童拓人だ…宜しくな」


太陽という名前がぴったりな男の子だと思い、くすりと笑うと雨宮も何か察したのか笑顔を浮かべた。

「そういえば…抜け出してきて大丈夫なのか?」


入院しているという事は何らかの病気だからだろう。といっても雨宮の明るさは病人の雰囲気は微塵足りたりとも感じさせなかった。
雨宮はバツが悪い様に苦笑いを浮かべると、傷の沢山付いたサッカーボールを胸の前で抱き締めた。
その動作、表情、風景――全てに自分が重なって暫く言葉が出なくなった。


「サッカーが…やりたくて、いつも抜け出してサッカーやっては連れ戻されちゃうんだ」

はは、と笑うと何を思ったのか俺の腕をギュッと掴んだ。


「君も、サッカーやりたいだろ?一緒にやろうよ」
「え、でも……」


本当は思い切りサッカーがやりたかった。
毎日病気の事なんかよりもサッカーの事ばかり考えていた。
この腕に赤いキャプテンマークを着けて皆とサッカー出来たら、とそればかりを切望しては叶わない事だと思い知らされてきた。


「…少しだけでも思いっきりサッカーやろうよ!全部、全部忘れてさ!」
「!…雨宮」


雨宮から送られる言葉の一つ一つが俺の胸に留まり、じわりと涙が浮かんだ。
雨宮はグッ、と親指を立てると俺の腕を掴みながら病室を出た。

そのまま走って病院を出る。





久し振りに感じたそよ風が体を包み、心に染み渡った。





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