長編
□01
1ページ/1ページ
ザァ、と生い茂った木が風の流れに合わせて揺れる。
ガゼルは今お気に入りの練習場所に来ている。
此処は昔お日さま園にいた頃よく皆でサッカーをしにきた思い入れのある場所だった。
ガゼルは何か辛い事や悩む事があると、サッカーボールを持って引き寄せられるかのように此処でサッカーの練習をする。
今日も例外ではない。
「(また…バーンと喧嘩してしまった)」
今日の試合はダイヤモンドダストとプロミネンスの練習試合だった。
そこで休憩中にガゼルが善意でたまにはバーンと協力しようとスポーツドリンクをバーンに渡しに行った。
その際置いてあったタオルに足を躓かせ、思い切りバーンの顔面にかけてしまったのだ。
ガゼルが焦って謝ろうとしたのだが、バーンが「嫌がらせか!?」と怒った。
いきなりスポーツドリンクをかけられた側としては当たり前な反応なのだが、素直になれない性格のガゼルは"きちんと渡そうと思ったけど躓いてこうなった"とは恥ずかしくて言えずに
「君にはそれがお似合いだよ」
と鼻で笑ってしまった。
そこからぎゃあぎゃあ喧嘩が始まり試合は中止となった。
とぼとぼと暗くなった一本道を歩きながらガゼルは俯いていた。
「(悪いのは、私なのに…なんであんな事言ってしまったんだろう…)」
溜め息をつき、ひょんな喧嘩で落ち込むガゼルにこれから悪魔の災難が降りかかろうとしている事は誰も知るよしがなかった。
グッ
いきなり口に布を当てられた。
「…!?」
ジタバタと抵抗しようとするとさらに強く布を押し当てられた。
途端ぐらり、と視線が揺れる。
「(な、に――――)」
後ろで男が口角をあげて笑ったのを感じたところで、ガゼルの意識は途切れた。
――物語の幕は斬って落とされた。
ーーーーーーーーーーーー