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□今さら立ち止まれないなら
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神童は最近良く笑うようになった。
前も笑う事はあったがそれは微笑みで、年齢に似つかわしくないものだった。

「神童」

せっせと鞄に教科書やノート類を詰めている神童に声をかける。
くるりと此方に振り向く。

「霧野か、どうした?今日は部活休みだぞ?」


昔は霧野って呼ばなかったのに。
神童に蘭丸って笑顔で呼ばれる事が何より嬉しかった。中学校に上がってから知らぬ間にお互い名字で呼ぶようになって、何だか成長と共に距離が開いてく気がした。


「一緒に帰らないか?」
神童は「あ―…」と困った様に眉を下げるとすまない、と謝る。

「今日は、剣城と帰る約束があるんだ。すまないな」
「剣城…?」

俺が聞き返すときょとんとした顔をしてどうしたんだと訊ねてくる。
剣城は神童を苦しめる存在の筈だったんだ。
フィフスセクターのシードというまさに敵として現れた剣城は、神童の敵。つまり俺の敵だった。


「神童、最近剣城と仲良いよな」
「そ、そう…か?」

神童は少し慌ててから頬を染める。あっ、と神童が声を上げた。
神童の見るドアの方向に目をやると剣城がドアによしかかっていた。

バチン、と目が合う。
暫し睨んでいると剣城が何かを察した様に一瞬驚いた顔をしてニヤリと口角を上げた。


「キャプテン、迎えにきました。でもその前に霧野先輩が話があるみたいですから待ってて下さい」
「え?…ぁ、ああ」

霧野先輩、とそれはもう優しく呼ばれ剣城と教室を出る。
少し歩いたかと思うとピタリと止まって此方を振り向く。

「なんか俺に言いたい事でもあるんですか?」
「ああ、あるよ。山ほどな。…神童とはどういう関係だ」

俺が声を低くして言うと剣城は愉しそうに笑った。

「くく…、どんな関係?野暮な事聞くんですね」

俺の目を見据えて口を開く。

「恋人ですよ。それはもう相思相愛のね」


薄々は気付いていたが確信に変わった。

「神童を泣かせたら許さない。例えどんな理由であろうとも」

「ハハッ…何言ってるんですか」

スッ、と俺に近付く。

「幼馴染みっていう位置から抜け出せない臆病者のアンタより、俺の方がずっとアイツを守ってやれる」

そう言うと剣城は何も無かったかの様に神童の元へ向かった。




(今さら立ち止まれないなら)
(なら、貫き通すだけ)



end.

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