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□越えられないなら埋めればいい
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「どうしたら…俺を見てくれるんだ、剣城……」

ぐっと手を握り淋しそうに剣城の背中を見つめる白竜の表情は僕には見せてくれない表情だった。
いつも、いつもそうだった。
僕や教官、チームの皆の前では表情一つ崩すこと無く覇気を纏い練習をする。

「(でも僕は知ってる)」

白竜が究極になりたいというのは剣城を越えたいからだという事。
そして白竜が微笑みを浮かべたり淋しそうな顔をしたりするのは、全て剣城を前にした時だという事。

「(…もう、我慢出来ないよ)」

仮面を被り自分の気持ちを隠して白竜に接するのには、流石の僕にも限度があった。
白竜が少しでも僕の方を向いてくれたら、と何度思ったことか。
一途で純粋に叶わない夢を追い続け、傷付く白竜を僕はもう見ていられなかった。



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ボールを蹴る音が静かなグラウンドに響き渡る。
他の皆はもうシャワーを浴びて部屋に戻ってしまった。

「白竜…そろそろ止めた方がいいよ」
「はぁっ…シュウ…まだ居たのか」

ぐい、と流れる汗を拭うとよろよろと立ち上がりボールを蹴ろうとする。

「毎日毎日そんな無理ばかりしてたら、白竜の体が持たないよ!」
「…まだ…、まだ、こんなものでは…アイツに勝つ事など出来ない…!」

ぷちり、と僕の中の何かが音をたてて切れた。
いつでも白竜の追い続ける視線の先には剣城がいて、僕はこれっぽっちもいない。

「――また、剣城?」

ゆっくりと、確実に白竜に近付く。何時もより低い声に何か感じたのか白竜が不思議そうに此方を見る。

「シュウ…?」
「白竜は、剣城が全てなの?」

小さくそう訊ねると白竜は俯き、そうではないと細々い声で言った。
白竜の細い肩を掴み、芝生に思い切り押し倒す。

「痛っ、シュウ!何をする…!」
「ねえ…僕じゃ駄目なの?剣城なんかより、白竜を幸せにしてあげられるのにッ…」

何か言おうとした白竜の言葉を塞ぐように深く口付けをする。
逃げようとする舌を捕まえて絡めると、苦しいのか僕の胸を叩いてきた。

「ふ、ぅ…ん、っぷは、はぁっ……」

唇を離すと銀色の糸が引く。白竜に押され、後ろによろめく。

「シュ、ウ……なんで…こんな、ことっ」
「僕が白竜を愛してあげる」

微笑みながらそう言うと白竜は驚いたように固まる。


(僕しか見えないように)
(君を愛してあげる)



end.

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