本編達

□四章 熊野参詣
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 「うん。今、いいかな。その宝玉の事もあるし、私の仲間に会ってほしいんだ」
 「別にいいぜ。急ぐ用事もないからな」

 私は将臣くんを皆に紹介した。
 譲くんのお兄さんで、私の幼なじみ。
 そして、宝玉に選ばれた八葉みたいだと。

 「まさか兄さんも八葉に選ばれていたなんて…」

 驚いた様子の譲くんに対し、白龍が当然の事を言うように話す。

 「宝玉を身に受けてる。八葉の証だよ。将臣は、天の青龍だね」
 「その八葉ってのは何だ?手短に頼む」

 将臣くんがそう言うと、弁慶さんが説明してくれる。

 「龍神の神子に選ばれた望美さんを守る役目を持った者達の事です。龍神の神子というのは…」
 「ああ、もういいぜ。要はこいつを守ればいいって事なんだろ」

 将臣くんがそう言うと、弁慶さんが笑う。

 「将臣くんは呑み込みが早くて助かりますね。僕達は望美さんと一緒に、怨霊と戦ったりしているんです。将臣くんも、八葉として協力してくれませんか?」
 「…今すぐか?ちょっと、都合がつかねぇかもな。俺、ちょうど、熊野本宮へ行く途中なんだよ」

 将臣くんの言葉に私は笑顔で言う。

 「私達も本宮へ向かうところなんだよ。一緒に行こうよ」
 「へぇ、偶然ってのは、重なるもんだな。いいぜ。本宮に着くまでは、お前の八葉をやってやるよ」

 笑顔でそう言う将臣くんに譲くんが聞く。

 「本宮につくまでは…って、その先はどうするつもりなんだ」
 「俺も都合があるんだよ。悪いが、付き合えるのは本宮までだ。いいな」

 将臣くんの言葉に、私は少ししょげる。

 「せっかく会えたのに、どうしても離れなきゃならないの?」
 「悪いな。どうしてもだ。面倒事を片付けなきゃならない」

 切なそうなのに、決意は固そうで、それ以上は言えない。

 「兄さんの勝手は今に始まった事じゃないからな」

 譲くんがそう将臣くんに言ってから、私を見る。

 「こうなったら、俺達が折れるしかないですよ。春日先輩」
 「さすが、譲。よく解ってるじゃないか。ついでに周りの連中、紹介してくれ。手短にな」

 将臣くんがそう言うと、九郎さんが前に出る。

 「そうだな、俺は…」
 「ああ、九郎。手短にというご希望ですから、僕が纏めてご紹介します」

 それから、弁慶さんが皆の分の紹介を一人で取り仕切ってくれた。
 弁慶さんの紹介は短いながらも的を射ていて、名前以外興味ないと言っていた将臣くんも、最後までちゃんと聞いていた。

 「…そして、最後。こちらが敦盛くんです」
 「あ…っ敦盛……です。はじめ、まして…」

 緊張しているのか、声を詰まらせながら言う敦盛さんに、将臣くんは少し首を傾げる。

 「……ん…?ああ、よろしくな、敦盛」
 「…………では、これで長かった紹介もおしまいですね」

 何故か二人をじっと見ていた弁慶さんが締めれば、白龍が可愛く笑う。

 「八葉が七人。神子、あと一人で八葉は満つるよ」
 「後一人で、八葉が皆集まるんだ。これからも頑張っていこう!」

 白龍に応えれば九郎さんが頷いてくれた。

 「そうだな。仲間が増えるのは心強い」
 「そうそう、一人でも多い方が賑やかで楽しいからね〜」

 景時さんがそう言うと、敦盛さんが戸惑う様子で皆に声をかけた。

 「……一つ、聞きたい。八葉というのはどうしても全員揃ってないといけないものなのか?」
 「どうしても…という事はないでしょうね。しかし、神子を守る力は多い方が良いでしょう。それは、解りますよね」

 弁慶さんが諭すように答えれば、朔が不思議そうに問う。

 「…今になって、どうしてそんな事を聞いたりするの?」
 「…いや……」

 敦盛さんがいいよどむと将臣くんが言った。

 「別にいいじゃねぇか。今まで俺がいなくても、困らなかったんだろ。無理に揃える事もねぇのかもな」
 「まあ…そういうものかもな」

 九郎さんがそう同意を見せれば、将臣くんが締める。

 「さ、早く行こうぜ。熊野はまだ遠いんだ」
 「なんで、兄さんが仕切ってるんだよ…」

 譲くんが呟いて立ち去るから、私達も後に続いた。
 私達が去った後で、二人がどんな会話をしていたのかは、知らない。
〜〜〜〜〜
 「…将臣殿…………すみません」
 「気にするな。俺とお前は、初対面…って事なんだろ」
〜〜〜〜〜

 そして私達は本宮大社を目指して、歩き始めた。
 その途中、新熊野権現に到着した時、弁慶さんが言った。

 「無事に田辺までは来る事が出来ましたね。良かった」
 「無事!?八葉とか言うのはそんなに面倒事が多いのか?」

 将臣くんが声を裏返らせて聞いて来れば、先生が淡々とした調子で答える。

 「神子の封印の力は稀有なものだ。その力を疎んじた者、あるいは欲した者が害となる事もある」
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