本編達

□四章 熊野参詣
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 「気を付けなきゃいけないんですね」

 私がそう答えると、譲くんが笑った。

 【……来た来た、あれか。へぇ…ぞろぞろとオマケもついてきたな】

 「大丈夫ですよ。先輩は、俺がまもります。ん……?」

 譲くんが警戒した表情に変わり、怒鳴った。

 「そこの木の上にいる奴!いったい何者だ!?」

 譲くんの言葉を受けて、知らない男性が木の上から飛び降りて来た。

 「あんたが噂の白龍の神子かい?評判通り可愛いね。こんな、花も恥じらう姫君を見たのは俺も初めてだよ。ひょっとして月の光でできてるのかい?それとも、衣を通して光輝いたっていう伝説の美女、衣通姫かな?はじめまして。よろしく、姫君」

 喋りながら手を取り、軽く口付けを落とされる。
 慣れない事に驚きながら、男性を見て返事をする。

 「あ……えっ、初めまして。何故、私を白龍の神子だと?」
 「あんたみたいなお姫様が、この世に何人もいる訳ないだろ?聞いた話じゃ、あんた達、本宮に行くそうじゃないか。ここ、田辺は熊野水軍の本拠地なんだぜ。熊野水軍の一員としてあんた達を歓迎するよ、神子姫様」

 もう、何を言えばいいのか解らなくなりそうだ。

 「ありがとう。でも、そんな大袈裟な呼び方、落ち着かないよ……望美でいいよ、望美で」
 「ふうん、いい名だね。じゃあ、それで呼ばせて貰おうかな」

 にやりと笑う男性に、私は聞いてみた。
 聞けば答えてくれると思ったから。

 「あなたの名前は、何て言うの?」
 「オレ?そうだな…ヒノエってところかな。『籠もよ、み籠持ち…この丘に菜摘まず兒家聞かな、告らさね…我にこそは告らめ家をも名をも』知ってたかい?自分の名前を相手に告げるってさ…昔は、相手に心を許すっていうのと同じ意味だったって」

 半分以上聞き流していたと思う。
 もしくは、まったく理解出来てなかっただけかも知れないけど。

 「ふうん…えっ?ええっ!?」

 理解すると同時に赤くなるのを自覚する。

 「ふふっ、赤くなった。可愛いね」
 「ヒノエ。女の子を見付けるたび、後先考えず口説き出すのは止めたらどうですか」

 弁慶さんがヒノエくんにそう言った。
 それをヒノエくんは嫌そうな見た。

 「なんだ、あんたか。悪いが野郎は目に入んないんでね」
 「知り合いなんですか?」

 聞けば弁慶さんが疲れたような表情になる。

 「知り合いといいますかねぇ……まあ、察して下さい」
 「ヒノエ、かわっていないな」

 敦盛さんがヒノエくんに話し掛ける。

 「よう、敦盛じゃねぇか。久しぶりだな。いつの間に、姫君と知り合ったんだ?お前も、結構すみにおけないじゃん」
 「いや、あの…そうではない。そんな事を言っては神子に迷惑だろう。私は神子の八葉なんだ」

 それを聞いたヒノエくんが私に視線を向ける。
 その時、恒例の、そして多分、最後の光が現れた。

 あ、この光…まさか?

 「ヒノエ、あなたも八葉だよ」
 「えっ、オレ?」

 白龍の言葉にヒノエくんが、初めて驚いたような表情を見せる。
 それに気付かないのか、興味がないのか、白龍が続ける。

 「うん、火の気を纏う離の八卦の八葉。ヒノエは、天の朱雀だね」
 「おいおい、八葉ってあれだよな。龍神の神子を守るっていう……ちょっと、まずいな。それ」

 ヒノエくんは本当に困ったように言う。
 私はヒノエくんから少し離れて、白龍の頭を撫でてから言う。

 「ヒノエくんが八人目の八葉なんだ。でも、迷惑ならしょうがないかな」
 「姫君にかけられる迷惑ならいくらでも…っていいたいけどね。だけど、そうだな……暫く熊野にいるんだろう?それならオレの方から会いに来るよ。互いに知り合う時間ってのも必要だろう?望美ちゃんまた、会いに来るのを許してくれるかい?」

 ここで断れる人間を私は知らない。
 でも、上手く声が出ない。

 「う、うん」
 「そう、良かった。じゃあね」

 そう言ってヒノエくんが姿を消した。

 「あっ!」
 「心配ない。木の上に飛んだんだ」

 慣れているのか、冷静に敦盛さんがそう言った。
 そして、弁慶さんが困ったような表情になる。

 「やはり、一筋縄ではいかない相手ですね。けれど、ヒノエが八葉というのは好都合かも知れない」
 「え?どういう事ですか?」

 私が聞けば弁慶さんははぐらかすように笑った。

 「なんでもありません、熊野のいい道案内が出来たと思いますよ」

 そして私達は、再び本宮大社へと向かって歩き始めた。
 山の途中、熊野路で白龍が聞いてきた。

 「神子、大丈夫?疲れていない?」
 「うん、大丈夫だよ」

 言いながら頭を撫でていると譲くんが白龍に言う。

 「白龍こそ、よく頑張るな」
 「うん」
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