本編達
□序章
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十二月十日━鎌倉
休み時間の教室で、幼なじみで同級生の、有川将臣が望美に話し掛けてきた。
「ふーっ…。今日の物理、漸く終わったか。眠かったな」
「寝てる割には、将臣くんて、テストの点数良いよね」
「ま、ヤマはるのだけは得意だからな。いざとなったら教えてやるよ」
「うん、期末テストが終わったら楽しい冬休みにしたいし…こたつでミカンでも食べてのんびりしようよ。こないだ、おばさんにミカン、いっぱい貰ったしね。葉っぱがついたミカンだと、なんだか嬉しいよね」
「そうか?俺にはその感覚、よくわかんねぇな」
「いいよ、将臣くんには解って貰えなくても」
少し拗ねながら言えば、将臣くんはそれに気付いて笑いながら話し掛けて来る。
「そう拗ねるなって、好みが別れてるんだから、揉める事も減るだろ」
「え?どういう事?」
首を傾げて問えば、将臣くんは楽し気に笑って答える。
「…だからさ、これから葉っぱつきのミカンは全部お前にやるからさ、葉っぱなしのミカンは全部俺にくれよ。いい取引だろ」
「それって…将臣くんが得する事の方が絶対多いよね…」
「バレたか」
そんな事を話してると、予鈴がなった。
私は少し慌ててそれを口にする。
次は体育だから、少し慌ててしまうのも無理はないと思う。
「あっ!授業が始まっちゃう」
「次は…体育か、バスケも面倒くせぇな」
「そんなこと言って、やれば夢中になっちゃうくせに」
「ん?」
少し意地悪な調子で首を傾げる将臣くんには、逆らわないようにしている私はおどけて返した。
「なんでもありませーん。あ、体育の次も用意しなきゃ。えっと、四時間目って何だっけ?古文だったような気がする」
準備をしながら考える。
「今やってるのは、平家物語だったかな?今から八百年位前の話だっけ」
「そんな昔の話が、今まで残ってるってのも不思議なもんだな」
「それだけ、好きな人が多かったって事だよね」
「琵琶法師だっけか?平家物語を語るって仕事もあったんだよな。琵琶法師っていうと、耳を切られる怪談、思い出すよな」
「ダメダメ!!私、そう言うの苦手なんだから!」
引き気味に叫べば将臣くんも素直に謝ってくれる。
「悪い、悪い」
その瞬間、小さく鈴の音が聞こえた気がした。
「あれ?今、何か、音がした?気のせいかな?」
「何も聞こえねぇぞ?それより、体育館に行こうぜ。遅れたらうるさいからな」
モタモタしていたら、将臣くんは優しく笑って声をかけてくる。
「ほら、行くぞ」
そうして、私と将臣くんは歩き出した。