本編達

□一章 宇治川、霧に惑う
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一章 宇治川、霧に惑う

『迷い込んだ異世界の宇治川。そこは怨霊を操る平家と、源氏が争う戦場だった』

 体育館へ行こうと将臣くんの後に続いて歩く。
 外は雨だった。
 外にある渡り廊下で、クリスマス会について会話をしながら歩いていた。

 「だから、駅前のお店にしようと思うんだ。去年と同じになっちゃうけど、飾り付けも可愛かったし…」

 そこまで言ったところで、渡り廊下の向こうから譲くんが歩いて来るのが見えた。
 譲くんのクラスメートが楽し気に会話をしているのに、譲くんはそれに参加していなかった。

 「次なんだっけ?」
 「古典だろ。あ、今日お前当たる日じゃん」
 「げっ…マジで?」
 「だって、前回中村だったろ…二階堂休みだし、お前じゃん」
 「うげぇ…」

 その会話の途中で、渡り廊下のそばだけど、雨に濡れる位置に立つ小さな子供が眼に映った。
 可愛いと言うべきか、美しいと言うべきか。
 目立つ容姿の子供は、見慣れない服装で、佇んでいる。
 私が立ち止まるのに合わせるようにして、将臣くんと譲くんが立ち止まった。

 「どうしたの、君。迷子?」

 声をかけると、子供は眼を開いて何かを呟き…笑った。
 ふわりと、天使のようなあどけなさで。

 「あなたが、私の……神子」

 その瞬間、視界が白くなりはじめ、ゴゴゴッという音と共に濁流に飲み込まれた。
 将臣くんと譲くんが私を呼びながら、手を伸ばしてくれる。

 「望美!!」
 「先輩っ!!」

 私も手を伸ばす。
 後少しで、将臣くんに手が届く…指先が触れる。
 しかし、将臣くんは濁流に飲み込まれ、沈んでしまう。
 続いて譲くんの姿も見えなくなる。
 私は叫んでいた。

 「将臣くん!!譲くん!!お願い、誰かとめて!!」

 叫ぶと、先程の子供が何かを祈る姿が見えた気がした。

 「神子…」

 しかし、それを眺めている余裕もなく、私も濁流に飲み込まれた。

 意識を取り戻すと、私は見たことのない服に変わっていた。
 見覚えのない場所。
 辺りを見渡せば、座り込む女性を取り囲む、生きているとは思えない武士達が見えた。

 「ひっ…」

 小さく漏れた声を聞き付けたのか、その武士が私に迫ってくる。
 小さく後ずさるが、武士の動きは早く、恐怖に強張った体は動かない。
 その瞬間、武士が刀を振り上げ、降り下ろしてきた。
 もう駄目だと思った時、先程の子供が間に入り、刀で対抗する。
 しかし、小さな子供は簡単に吹き飛ばされ、意識を失ってしまったようだった。
 それなのに、武士は子供を標的に動き続ける。
 私は咄嗟に、子供が使っていて、弾けとんだ武器を拾って挑みかかった。

 「くっ」

 子供を背に、先程子供がそうしたように力比べとなる。
 凄い力に押され、もうだめだと思ったその時、清んだ声が聞こえた。

 「怨霊よ、お前の相手は私でしょう」

 先程囲まれて動けずにいた女性だった。
 武士を女性が攻撃して、少し距離があいた。

 「あなた、お逃げなさい。ここは……私が」
 「逃げろなんて!!そんな事言われても…あなたを置いて逃げられないよ!」

 言えば女性は驚いたような表情になる。

 「あなたは…怖くはないの?」
 「私だって怖いよ。だからこそ……こんなところに、女の子を一人残してなんて行けない。行こう、一緒に」
 「……ええ」

 しかし、周りには多数の武士達。
 それも、対話は出来そうにない。

 「くっ!やっぱり戦わなきゃだめなの!?」
 「あれは怨霊、悲しみや痛み、嘆きが降り積もった存在よ」
 「怨霊……」
 「大丈夫、私もまだ戦えるわ。あなたの事は私が守るから」
 「神子、龍の加護をあなたに…戦う力を」

 小さな子供が祈るようにそばに寄り添う。
 私は意を決して、怨霊武者に攻撃をしかけた。
 続いて子供が何か、光の玉を放ち、女性が扇で殴った。
 それを受けて怨霊武者が反撃してくる。
 また私達が攻撃をしかける。
 それを繰り返して、やっとの思いで怨霊武者を倒した。

 「やった…!倒したよ!」

 しかし、倒した筈の怨霊武者は再び立ち上がる。

 「ええっどうして!?倒した筈なのに!」
 「やはり無理なのね…封印の力を持たない私では…」

 落ち込んだように、苦しそうに女性が言う。

 「神子、封じて!あなたの力で!!」

 子供が真剣な声で私を見て言う。

 「何?私に言ってるの?そんなこと言われても!!どうしたらいいか、全然解らないよ!!」
 「あなたが、神子?あなたが、私の対…白龍の神子なの?」

 そんな事を言っている間にも、怨霊武者は私達に攻撃してくる。
 すんでのところで、何度もそれをかわす。
 その途中で、女性が言う。
 それも真剣な表情で。
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