本編達
□三章 三草山、夜陰の戦場
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三章 三草山、夜陰の戦場
【三草山に集まる平家の動きを押さえる為に、源氏は夜戦をしかける事にした】
京邸にて。
「京には日々怨霊が現れているようだな」
九郎さんがそう言えば、弁慶さんが答える。
「平家は本気で京を狙っています。このままですむとは思えませんね」
その時、景時さんが部屋に乱入する勢いで入ってきた。
「ねぇ、まずいよ、皆三草山に平家の軍が集まってるらしいよ。京を目指しての準備だって噂も出てきてるみたいだしさ。困っちゃうよね」
「やはり、そうですか……京を戦場にする訳にはいきません。今のうちに此方も攻めに回るべきでしょうね。何としても、三草山で平家を食い止めなければ」
弁慶さんの言葉で皆に緊張が走った。
これから何が起こるのか、平和ボケしていた私の頭は、すぐには理解出来なかった。
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私達は三草山にやってきた。
三草山には、平家の人達が陣を作っている。
三草山についた時間は夜。
今のうちなら有利に戦えるかも知れない。
平家と本格的に戦うのは初めてだから、皆、緊張しているみたいだ。
「おい、聞いたか?今度の敵は還内府だって話だぜ」
「か…還内府!?ど、どうするんだ?俺はまだ死にたくない!」
「お、俺だってそうだ!」
二人の雑兵が騒ぐ。
それを聞き付けた、二人より少し身分の高い武士がそれを諌めに行った。
「おい、そこの二人!戦を前にそのように怯える奴があるか!」
「ですが、だんな、相手は還内府ですぜ?」
「た、例え怖かろうと決して表に出してはいかん!」
それを少し離れたところで聞いていた弁慶さんが、呟くように言った。
「やはり、還内府の名の影響は大きいですね…」
「還内府ってそんなに怖い人なんですか?」
私が問えば先生がそれに答えてくれた。
「還内府も、平家の者には怖れを感じる存在ではない。怖れは、自らに敵対する力の強さを見て取った時に生じる。平家から見れば、九郎とて恐ろしい存在だ」
「いや、だんな。還内府は、九郎様とは違って、非道な男ですぜ。名乗りもせずに敵を討ち取るような事もあると、作法も道理も通じない、獣みたいな奴なんでしょう」
身分の低い方の武士…雑兵が先生にそう言った時、九郎さんが来た。
「なんだ、こんなところにいたのか」
「ええ、今還内府の事を話していたとろこなんです」
弁慶さんが答えれば、九郎さんは少し考えるような表情をする。
「そうか…今回は、宇治川のようには行かないだろうな。とはいえ、攻めるにしても景時の率いる軍が着いてからになる。もう少し時間があるから今は休んでいてくれ」
「そうですか…じゃあ、俺、少し向こうで休ませて貰いますね」
譲くんがそう言ったので、譲くんを見たら顔が真っ青だった。
「譲くん、何だか顔色悪いみたいだよ。大丈夫?つらそうだよ……」
「いえ、少し寝不足なだけです。心配しないで下さい。ここ最近、どうも眠りが浅いんです。あまりいい夢をみなくて……少し休めば大丈夫です。俺の事は心配しないで、先輩も休んで下さい。京からここまでずっと馬で移動して大変だったでしょう」
逆に心配してくる譲くんに何か言うべきか悩む間もなく、弁慶さんが優しく声をかけてくれた。
「二人とも、初陣のようなものですからね。緊張するのも無理ありません。準備がすむまで、ゆっくり、休んでいて下さい」
「はい、じゃあ…俺、向こうで少し休んでいます。何かあったら声をかけて下さい」
休んでいいと言われたので、陣へ行く。
「景時さんが来るまで、暫く時間があるのか…私も休もうかな」
だが、初陣で緊張しない訳もなく、休んでると言えるのか謎な状況だ。
そんな時、笛の音が聞こえてきた。
「笛の音…?どこから聞こえてくるんだろう?誰が…吹いてるんだろう…………ちょっと、見てこようかな」
音につられて歩いていると、少ししたら音が止んでしまった。
「あれ?聞こえなくなっちゃった」
「望美ちゃん!こんなところにいたの?出歩いてちゃ危ないよ」
声を掛けられ、振り向けば見知った景時さんでほっとする。
「景時さん」
「漸く三草山についたところなんだよ。遠いよね〜でも、偶然でも望美ちゃんに会えたのは良かったな。陣に戻るなら一緒に行こうよ」
「はい。あ!そう言えば、今、誰か笛を吹いてませんでしたか?」
陣を出た理由を思い出して慌てて聞けば、少し悩むような仕草をして景時さんはこう言った。
「笛?うーん、気が付かなかったな。オレと一緒に来た連中なんて荒くれ者ばっかりだよ。そんな雅な趣味の人なんていたかな」
「そいつは酷いですぜ!梶原様!」
雑兵の一人がそう言えば、景時さんが笑って謝る。
「はははっ、ごめんごめん、冗談だよ〜」