本編達
□四章 熊野参詣
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四章 熊野参詣
【中立の勢力である熊野水軍の協力を得るため、熊野へと説得に向かった】
三草山から京に戻ると、九郎さんのところに書状が届いていた。
鎌倉に住んでいるお兄さんからの手紙らしい。
「熊野ですか。僕は、お奨めはできませんね」
弁慶さんがいえば九郎さんが答える。
「だが、確かに、平家の本拠地・福原を攻めるなら海で戦える者が必要だ」
「やっぱり平家と戦うんですね」
私が言えば弁慶さんが気遣うように言ってくれる。
「戦わずにすむならば、それで良いのですが難しいでしょうね」
熊野には、熊野水軍という沢山の船をもつ強い水軍がいる。
今は源氏からも平家からも中立で、戦には参加していないけれど…。
私達は、熊野水軍の力を借りるために、夏の熊野路に向かう事になった。
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「漸く熊野についたね〜。もう足がくたくただよ〜」
景時さんが弱音を吐けば、朔が冷たい視線を投げ掛ける。
「兄上、あのくらいの道で音をあげられては困ります。白龍だって、頑張って歩いてるんですから」
不思議そうに二人を見る白龍に、私が簡単に話す。
「白龍は今日も頑張ってたね」
「うん。神子、頑張る」
その笑顔が可愛くて、つい抱き締めていると先生が教えてくれる。
「この地には温泉もある。ゆっくり休めばすぐに疲れも取れるだろう」
「へぇ……温泉、いいですね。そういうのも久しぶりかも。広いお風呂って贅沢だものね」
私の言葉に譲くんが賛同してくれる。
「そうですね。俺も暫くぶりです。元の世界じゃ、旅行にでも出ないと、自然に囲まれた温泉なんて入れません。凄い贅沢をしているのかも知れませんね、俺達」
「それにしても、宿を借りる事が出来て良かったわ」
朔がそう言うと、景時さんが嬉しそうに頷いた。
「ホント、ホント。親切な人がいて良かったよね〜」
「ええ、ちょっと大変でしたけどね」
弁慶さんが苦笑した事で思い出す。
山道の途中で先生が言った。
もちろん、近くには民家や宿もあったからだろうけれど。
『今日はこの辺りで夜を越した方がいいだろうな』
『解りました。宿を探しましょう』
九郎さんがそう応えて、道行く人に宿を借りられないか聞いて回り始めた。
宿屋はあったが、私達位の大人数では泊めるのが無理だと断られたり、男、女、子供がいるのに家族ではないとなると、部屋が足りないと断られたりした。
難航するものの、あまり焦りはなかった。
それから少しして、弁慶さんが言った。
『なかなか見付かりませんね』
『そうだな……今度はあの老人に訪ねてみよう。もし、ご老人』
九郎さんが弁慶さんに答えた直後、通りすがりの老人に話し掛けた。
『これは旅の方、どうされましたかな?』
『引き止めて申し訳ありません。実は、僕達を、一晩泊めて下さる方を探しているのです』
弁慶さんがそう言うと、老人は私達の方を見て頷いた。
『ふむ…そうじゃったか。見たところ、大層お疲れの様子ですな。儂の家で良ければ、泊まっていくかね?』
『えっ、本当ですか?助かりました。本当にありがとうございます』
九郎さんが驚きの声をあげてから、礼を言えば老人も笑う。
『いやいや、礼には及ばんよ。ゆっくりしていきなさい。それにしても、若いのに、礼儀正しい坊っちゃんだのう。名前を聞いてもいいかね?』
『お褒めにあずかり光栄です。私は、みなも……』
その瞬間、ドカッという音と共に九郎さんが吹き飛ばされ、変わりにそこには景時さんが立っていた。
『い、いやぁ、本当に助かりましたよ〜。宿が見付からなかったら、どうしようかって、途方にくれてましてね』
景時さんがそう言って老人と話していると、地面に倒されていた九郎さんが飛び起きた。
『おい、景時!』
『しー!』
それを弁慶さんが宥め、九郎さんは不思議そうに弁慶さんを見ていた。
「あの時はびっくりしたよ〜」
景時さんも思い出して言い始める。
「九郎ってば、来る前にあれほど言ってたのにさ〜」
「平家も、熊野に来ているんでしたね。源氏に関わる者である事は、絶対に明かす事はできない」
譲くんが何度も言われ続けた言葉を復唱する。
それだけ九郎さんの行動に皆が驚いたのだけれど。
「ええ、そうです。肝心の九郎が無頓着だから困ったものです」
弁慶さんが疲れた様子で言うから、私も頷く。
「平家も熊野に来ているのか…やっぱり熊野に協力して貰うつもりなのかな」
私が呟けば敦盛さんが話してくれる。
「熊野は、平家に縁が深い地だ。平家にとって、熊野は山深い聖地のようなものなのだ」
「じゃあ、敦盛さんも熊野が好きなの?」
何気なく問えば、敦盛さんが動揺する。