本編達
□六章 鎌倉に届かぬ声
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六章 鎌倉に届かぬ声
【源氏の大将の任を解かれた九郎は兄・頼朝に申し開きする為鎌倉へと向かう事になった】
政子さんが鎌倉に帰って暫くしてから、私達の元へ、鎌倉から書状が届いた。
九郎さんは福原で敗戦した責任を問われて、源氏の総大将の役目を降ろされてしまった。
代わりに軍奉行の景時さんが源氏の軍勢を預かっているけれど…。
九郎さんは謹慎する事になったまま…何日たっても頼朝さんからの許しはない。
「鎌倉殿のお怒りは激しいようね」
朔の言葉に、私も頷く。
「頼朝さんは勝てると思ってたんだろうね…」
私が言えばヒノエくんが嫌そうに顔をしかめる。
「『敗戦は兵家の常』負ける戦があって当たり前だよ。だのに、頼朝の野郎…合戦で一回負けたくらいで、いちいち大将をクビにするとはね。戦の解ってねぇヤツはこれだからイヤだよ」
「兄上の事を悪し様に言うな!兄上を侮辱する事は許さん。敗北したのは、俺の責任だ。源氏の将として力不足と兄上が判断されるのも当然だ」
九郎さんの言葉を聞いたヒノエくんが驚きの表情を見せてから、鼻で笑う。
「へえ、あんた、こんな仕打ちされてもまだ兄貴を信じるのかい?だいたい、今、源氏が京を押さえているのだって、あんたの手柄だろ。九郎、少しも悔しいとは思わないのかい?」
「悔しいさ!俺は……大将である事等どうでもいい。だが、戦から外されるのは…」
九郎さんのこんな苦しそうな姿を見るのは、はじめてかも知れない。
「頼朝殿に直接会ってみてはどうだろうか」
敦盛さんの提案に、九郎さんが反応する。
「兄上に…直接…?」
「ああ。あなたの真意を伝えれば…頼朝殿にも解ってもらえるのではないだろうか」
その言葉に次に反応したのは景時さんだったが、あまり良い反応ではない。
「う〜ん、どうかな…簡単には聞いて貰えないかも知れないよ」
「けれど、文を送っても効果はない。直接お会いする必要は、いずれにしろあるのかも知れません」
弁慶さんが言えば、九郎さんも頷く。
「そうだな。…俺は申し開きの為に鎌倉へ下向しようと思う。景時、後は任せる」
「それは……いいけどさ。でも……本当に頼朝様に…会うのかい?」
景時さんは、本当におすすめしないらしく、渋っているように見える。
「ああ、源氏の軍勢を束ねるのはお前だ。後の事はよろしく頼む」
九郎さん、鎌倉に行っちゃうんだ…どうしよう。
「九郎さんと一緒に鎌倉に行きます」
「これは、俺一人の問題だ。他の誰も巻き込むつもりはない」
九郎さんの言葉に私も真剣に返す。
「巻き込まれるんじゃないよ!仲間でしょう?心配だから私も行きたいんです」
「神子がそう思うなら、それがきっと…正しいね。九郎、私も…ついて行ってはいけないか?」
白龍が私の言葉に反応して言う。
すると弁慶さんが九郎さんに進言してくれる。
「九郎、ついて行って貰った方が良いかも知れません。龍神と白龍の神子があなたについているという事が…鎌倉殿を動かす材料になるかも知れない」
「そういうものなのか?」
九郎さんが悩んでいるうちに、話を纏めてしまう。
「うん、じゃあ、決まりだね。一緒に鎌倉に行こう、よろしくね、九郎さん」
「譲、旅の支度をしよう」
白龍が譲くんに話しかける。
「えっ?」
「譲も行くよね。気にかけている」
白龍の言葉に、譲くんが諦めたように笑った。
「……参ったな……解ったよ」
「そうか、譲くんにとっても鎌倉は故郷だもんね」
譲くんに言えば、小さくタメ息をつかれた。
「そう……ですね。世界は違っても鎌倉は鎌倉ですから、多少は役にたてるかも知れません」
それから私達は急いで準備をした。
そして、準備を終えると皆が見送ってくれた。
「留守は我々が守る。鎌倉は遠いが……」
敦盛さんが心配そうに言ってくれる。
私はその心配を振り切るように笑って答えた。
「はい、大丈夫ですよ。すぐに京に戻って来ますから」
「ああ、土産でも楽しみに待ってるよ」
ヒノエくんが笑って言ってくれて、朔がその後に続いた。
「望美、どうか無事で」
「うん、朔も元気でね」
私達は京を出て逢坂の関を越えて東へ向かった。
そして、鎌倉に到着してから半月が過ぎた。
鎌倉についてからもう半月だよ……九郎さんが、会いたいという手紙を何通も出しているのに…頼朝さんからは何の音沙汰もない。
私が落ち込んでいると、白龍が代弁するように言ってくれる。
「九郎……だめだ。今日も返事は来てない。頼朝は…どうして……」
「兄上……俺が兄上の期待を裏切ってしまったからなのか…」
白龍の言葉に応えるように、九郎さんが苦し気に言う。