本編達
□七章 京は火炎に揺らめく
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七章 京は火炎に揺らめく
【京は平家の侵略を受けた。急いで戻った望美達は仲間達との合流を目指す】
頼朝さんに会えないまま鎌倉を発った私達は、京へ急いだ。
皆が待っている筈の…平家に襲われているという京へ。
でも、京に辿り着いた私達を待っていたものは…。
燃え盛る京の町だった。
「京の町が…燃えてる?平家の襲撃を受けたからと言って…こんなに……」
譲くんの言葉に、私は動揺を隠せずに取り乱す。
「どうしよう……皆……大丈夫かな……。こんな火事の中にいるなんて!」
「……先輩、落ち着いて。焦ってはだめです。弁慶さんも景時さんも源氏軍では有名な人だ。京の町に入ればきっと行方は解ります。まずは……源氏が今どこに集まっているかが解ればいいんだが」
最後は一人言のような、呟きになっていた事には譲くんはもちろん、私も気づかなかった。
「う、うん。そうだね、こんな時こそ落ち着かなきゃ」
そう私が言ったところで、一人の老人が息を切らせて走って来て、倒れた。
「おじいさん!?大丈夫ですか?」
慌てて抱き起こすと、老人は口を開いた。
「も、もうだめじゃ。京は終わりじゃ。清盛様の恨みがこれほどとは…!平家の方々は、追い落とした京の者を恨んでおいでなのじゃ!!」
そこまで言って、老人は泣き出した。
「ううっ、町も、市も、御所も、皆焼けてしもうた…」
「ここにいた源氏は!京を源氏が守っていただろう!」
九郎さんが言えば、老人は泣きながらも答える。
誰でもいいから、つらさを訴えたい。いや、訴えなければ、何かが爆発してしまいそうな状況なのかも知れない。
「うっ…ううっ…わからぬ…平家の武者に散り散りにされてしもうた」
「六条の辺りも、焼けてしまったか、ご存知ありませんか?」
譲くんが問えば、いつの間にか泣き止んだ老人が暗い表情をみせる。
「いや…あそこは残っておった。いつまでもつかは知れんが」
「そうですか……ありがとうございます」
譲くんはそう言うと九郎さんに視線を移す。
「九郎さん、景時さんの屋敷に向かいましょう。まだ、京邸は無事のようだ。誰かいるかも知れません」
私達は老人に別れを告げて、京邸へ向かって歩き出した。
京邸に行かなきゃ。
皆…どうか……無事でいて!
清水寺を私達は出発した。
法住寺を抜けて川を渡ろうと法住寺を目指していた。
熱い町を、燃える町を抜けて法住寺に到着した私達に、九郎さんを慕う武士が見付けて声をかけて来た。
「神子様!九郎様!ご無事でしたか!!」
「源氏の軍は!?どうなっている!」
九郎さんが問えば、武士は悔しそうに涙をみせる。
「くっ…皆、平家の怨霊に追われ…」
「九郎さん、急ごう!!」
私がそう言って走りだそうとすると、武士が慌てた様子で止める。
「神子様!そちらは通れません!橋が落ちているのです」
「通れるのはどこだ!!」
九郎さんが問えばすぐに答える。
「五条大橋のみと聞いております!」
「くっ!望美、五条大橋に回るぞ!」
五条大橋は、一番遠い橋…一番、遠回りになる橋…。
迷っている時間はない。
私達は五条大橋を目指して、走り出した。
途中叫び声が聞こえて、そこに立ち寄ったりしながら、足を進める。
その時、また新たな悲鳴が聞こえて来た。
足は迷うことなく、悲鳴に向かって行く。
「うわああぁあ!」
「グルルルゥゥウウ!」
人の悲鳴と怨霊の声が町を埋め尽くさんばかりに、響いている。
「ははは!源氏の者ども、逃げ惑うがいい!」
「や、やめてくれえぇっ!」
怨霊使いと怨霊の攻撃に、源氏の武士や雑兵が悲鳴を上げている。
危ないところにギリギリで到着して、怨霊を封じれば後ろから武士の声が聞こえる。
「あ、あなたは…」
「大丈夫だね?」
夢を見ているかのような、危な気な気配を出しているのが心配になる。
そこに他の武士達も集まって来る。
「神子様!九郎様!!」
「皆、無事か!?他の源氏の者達は?六条櫛笥小路の梶原の邸にいた者達の所在を知らないか?」
九郎さんが問えば、武士達は互いに顔を見合せ、申し訳なさそうに口を開く。
「いえ…すっかり散り散りになってしまって…弁慶様も梶原様も出陣されましたが、それ以降は……」
その瞬間、怨霊使いが高笑いを始めた。
「九郎義経か!!これは大物だ!喰らいつくせ、怨霊よ!」
「うわあぁあっ!」
武士達の悲鳴が再びこだまする。
それを九郎さんが静める。
その手腕は流石としか言いようがない。
「お前達は退け!もしも弁慶達に会ったなら…京邸に合流せよと伝えよ!!」
「はっ!」
助けられ、命の安全がある程度確保された事で、冷静になれる。