BOOK 月下美人
□九話
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店に着いて着物を買った。
店のおばさんは優しくていい人だったし、また来たときに着物を作ってもらう約束もした。
買った着物は今着ている薄い桜色の桜の模様の着物。それを着て歩いているわけだが…
「あ、あの!この着物、似合って…ます…か?」
先程から話しかけているのに私の声が小さいせいで気づいてもらえないのか誠君から返事が返ってこない。
もしかして、着物を選んでいるときだいぶ待たせてしまっただろう。
そのせいで怒っているかもしれない。
そう考えるとだんだん声が小さくなって足取りも重いものへと変わっていく。足が止まってしまう、誠君が遠くなってしまう。
誠君がだんだんと遠くなっていくのを私はただ動けずに見ていた。
…足が動かない。
街の通行人が私たちの間にたくさん歩いてきて誠君はとうとう見えなくなってしまった。
「…あ、月?」
私は馬鹿だ。
どうして歩いて付いていかなかったのだろうかと今さら、後悔した。
この辺の土地には全然詳しくないしもと来た道を帰ろうにも多分迷ってしまって帰れないだろう。
…困った。
誠君を探しに行こうにも、下手にここを動くには危険すぎる。
「どうしよう…」
誠君がもと来た道を引き返して探しに来てくれるのかも分からない。
とてつもない孤独感、唇を噛み締めた。
涙のせいで視界がだんだんと歪んでいく、町中で泣くわけにもいかないので必死で涙をこらえた。
…やっぱり探しにいかなくちゃ、と足を一歩踏み出した。
知らない場所に一人取り残される、なんだか足が地面に縫いつけられているみたいだ。
私は一人じゃ何もできないのか…
町で歩いている人たちの足音が鮮明に聞こえてくる。
怖い…その言葉が頭の中でぐるぐる反響する、気持ち悪い。
不意に、とんとんと軽く肩を叩かれて驚いて振り返った。
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