BOOK 月下美人

□八話
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本当は一人で来るはずだったんだけどな・・・、と先ほどの咲さんが仕組んだやりとりを思いだす。

町に来る途中も誠君が話しかけてくれたんだけど恥ずかしくて「うん」とか「そうだね」くらいで素っ気なかった気がするし・・・。

ああもう、ダメだなあ。

会話もなんだかぎこちなくなってしまう。

・・・出来るだけ嫌な空気にはしたくないなあ。





町に入った。がやがやと、賑やかな声が辺りに響いている。


「わあっ、賑やかですね」

「だろ?他の町よりここはたくさん人が集まるからな。それに品ぞろえもいい。本当、いい町なんだ」


誠君は楽しそうに言う。


「でも、結構広そうですね・・・。あの、着物屋ってどこですか?」

「ん?早速着物屋に行くのか、月は、せっかく町に来たのにいろいろ見て回らないのか?」

「今日は着物を買いに来ただけですからね。早めに帰らないと…」


本当は見て回りたい気持ちもあるのだが、今日は仕方なく休みということになっている。

そういう訳だから早く帰って仕事をしないとなんだか申し訳ない。

でも、せっかく街に来たのにな…もったいないなあ…


「そうか、だったら近くの店にしよう。早く終わったら茶屋でお茶を飲んで帰るくらいの時間は出来るだろ?」

「え、そうですね…早く終わったら少しぐらいなら」


よし!行こう、そう言って私の手を引いて軽く小走りで店に進んで行った。






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