T-SS 2

□絡んだ糸は解けてしまった
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※完全パロディです。
※フォロワーのゆにこさんが描かれたドラキュラ銀時にあらぶった結果、……なんですが、アレ?おかしいな?(゜∀゜;)全然違うぞ?
※間違いなく、ゆにこさんの素敵なイラストからインスピレーションを頂きました。ゆにちゃん、ありがとうございます!そして勝手にごめんなさい…!
※ファンタジーとしてお読みくださいませ〜。




漆黒の髪に紅い瞳、白い肌。
戦場に突如現れた小さな娘は、ちろり、と舌を覗かせた。艶やかな唇は、この乾燥して汚れきった空気には似つかわしくない。
土埃と、鉄と、汗と、獣の匂いがする。しかし娘からは何の香りもしない。戦場でこんな人間は、まずいない。
娘の向こうに夜空が見えた。風が強く、雲の流れが早い。満月の光は白夜叉の姿を照らし、また隠した。
青年は夜目がきく。怪しげな少女から距離を取る。
彼女は両腕をだらりと下ろし、時折、眩しそうに瞼を伏せた。
月明かりだけの暗闇で、なにが眩しいのか。
風に乗って血の匂いが運ばれる。彼女にも感じたのだろう、すん、と鼻をならした。
逃げればいいのか、斬ればいいのかわからない。
害がなければ見逃してやることもできる。だか、娘は明らかに異質であった。
着物ではない、薄い布を身にまとっている。細い紐が肩から下がり、かろうじて胸を隠している。布の面積は小さく、足は膝を隠せてはいない。
ほっそりと伸びた脚は、なめらかな曲線を描いて足首まで続き、薄汚れた素足は痛々しい。しかし、怪我をしている様子はない。
擦りきれてボロボロの布は黒地のようだ。だが白夜叉の蒼眼には、錆びた朱色が見えていた。
全身に血をまとっている。
戦場であれば珍しくもない光景だが、年端もいかぬ少女であれば話は別だ。娘ひとりでこの戦さをくぐり抜けてきたのであれば、ただの娘ではない。
もののけか、と白夜叉は刀を構えた。
少女の瞳が、びくりと揺れる。むき出しの細い肩がすくんだ。
「………ころ、す……?」
怯える声に、白夜叉の決心は鈍った。
一瞬の隙が、彼の命取りになった。
人間の子供とは思えない身体能力で、少女は跳んだ。跳んだように見えた。
白夜叉の全身に負荷がかかる。頭上から降ってきた娘は、倒れ込んだ青年の腹上にのしかかった。
跨がり、上から見下ろす。娘の頭上で月が輝いた。
「……わたしは、ころさないよ」
澄んだ声がする。鈴を転がしたような、この場に似つかわしくない声に身震いがした。
「だって、ほら……」
少女は左手の小指を立てて見せた。
「みえるでしょ?」
訳がわからない。白夜叉には子供の指にしか見えない。
ふいに、娘は身を屈めた。背中まである長い黒髪が、青年の胸に滑り落ちる。
はっとして、息をのんだ。
紅い瞳を細め、娘の口角は静かに上がる。小さな、鋭い牙が見えた。
妖艶な微笑みに目を奪われる。意図的に奥歯を噛む。
危険だ。
ぐっ、と腹に力を込める。やはり、もののけだった。
倒れても刀は手放していない。戦さの申し子の決断は早かった。
強く握り締め、白い首筋を狙って素早く刃を立てた。
手応えはなく、何かを掠めただけだった。腹上の重みは去らず、ぱらぱらと細い髪が青年の顔や胸に落ちる。
娘の首は繋がっている。
避けられた。―――どうやって?
戦場の鬼と呼ばれた白夜叉が、愕然とした。
斬り落とされた髪を見つめ、少女は自らの髪に触れている。黒髪の一部は、肩の長さにまで短くなっている。
白夜叉は固唾をのんで見守った。
娘の躰を押し退けようにも、ピクリとも動かない。ちっとも重くはないのに、まるで重石が乗っているかのように動かない。
娘には体温もないようだ。腹上の肌は冷たく、ぬくもりが感じられない。
次第に、いまだ握っているはずの刀の感触もわからなくなり、手足が痺れてくる。
しばらく髪を撫でつけていた娘は、ようやく得心がいったように息を吐いた。
「……しもべには、もったいないけれど」
眉をひそめて、青年の額にゆるりと額を寄せる。間近で見る紅い瞳は、鈍く妖光を放っている。
迂闊にも、白夜叉は見惚れた。
「いいわ、わたしの………をあなたにあげる」
蒼眼を見開く。なにを、と問う暇はなかった。
鎖骨に鋭い痛みが走り、苦痛の声が上がる。牙を立てられている。
全身に熱がこもり、視界が霞んでくる。咄嗟に、きつく瞼を閉じた。
朦朧とした意識の中で、ようやく、両の腕を持ち上げた。
娘の髪をかき抱き、低く呻く。声にはならない。
痛みと浮遊感に苛まれる。だが、次第に快感に変わっていく。
眼を閉じていても頭がくらくらとし、かろうじて薄目を開ければ、雲の向こうで月がふたつに見えた。
呻き声と共に、大きく息を吐く。喘ぐような熱い吐息が、娘の髪に触れた。前髪が揺れる。
娘は牙をゆるめた。
痛みが和らぎ、白夜叉は手のひらを滑らせた。艶やかな黒髪を、意図せず優しく撫でる。白い首筋まで、指先は愛撫するように下りた。
動きを止めた娘を不可解に思い、視線を向ける。
紅い眼差しが熱を帯びていた。
身を起こした少女は、青年の頬にそっと触れた。
「やっぱり、あなただった」
え、と唇を開けた瞬間、冷たくやわらかい唇に覆われた。
甘い香りがした。


夢中で唇を押し付ける。
華奢な腰を抱き、なめらかな肌を味わう。少女は抵抗しなかった。
舌を甘く喰む頃、白夜叉の意識は遠のいた。


娘は、夜を生きる吸血鬼だった。




目が覚めると、青年の肉体には変化が表れていた。
蒼穹の空色をした双眸は深紅色に染まり、戦場で焼けた肌は女のように白く透き通っている。
陽光は、青年の身体に毒となった。かつての自分の眼色に、怯えるようになった。
見えなかったものが、見えるようになった。
―――異形のものと交わった、代償だろうか。
青年は左手の小指を見つめる。
それともこれは、以前からあったものだろうか。
自らの小指に絡む糸を眺めながら、朝のぬくもりに震える日々が続いている。
あの日、目が覚めると少女は消えていた。誰に聞いても姿を見たものはおらず、夢か幻かと疑うほどに忽然と消えた。現れたときと同じように、突然だった。
それでも、夢や幻のはずがない。青年の紅い眼と白い肌は、少女からもらったものだ。
ほどなくして、攘夷戦争は終わる。
青年は、白夜叉ではなくなった。




指先に絡む赤い糸を眺め、銀時はその先を見据えた。心の臓から流れ出ているかのような糸は、暗闇の中でも光って見える。
糸を辿る先に、きっと娘はいる。
「……俺は、しもべなんだろう?」
置いていくなど、卑怯だ。
何年でも、何十年かけてでも、必ず見つけ出してやる。
この命が永遠になったことへの、おまえなしでは生きられない躰にしたことへの、責任を取らせてやる。
たとえおまえが忘れていても、俺は覚えている。
おまえが望むなら、しもべらしく、かしずいてもいい。


そうして、何度でも、口説けばいい。




20140923 miyako
診断メーカーお題より『絡んだ糸は解けてしまった』

次ページに、お題から外れてしまったおまけ文あります。
完全に蛇足です…すみません。
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