T-SS 2

□全さち
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くるり、躰が回転する。灯りのない部屋で、見慣れた木目の天井が見えた。布団へ押し倒されたのだとわかる。
視線を動かすと、男のシルエットがゆるりと現れた。
忍び込んだのは、私だけれど。
男の熱と重みがのし掛かり、知らず、躰に力が入る。
暗い視界の中、突然何も見えなくなった。眼鏡を外されている。
「ぜん…」
遮るように、唇に堅いものが触れた。
この感触は知っていた。
全蔵の指先が、沈黙の合図を送る。
「アイツだと思って、抱かれればいい」
息をのんだ。
言葉を失う。
文字通り返事を待たず、全蔵は忍び服を剥ぎ取った。
あらわになった肌の至るところへ、唇が降りていく。大きな冷たい手が、何者にも晒したことのない柔肌を辿る。
男にも言葉はなかった。声を出せばあの人ではないと、わかってしまうから。
あやめは震える瞼を閉じた。真の暗闇になる。
男の唇の熱と共に、ちくり、ちくり、髭が肌を刺す。
―――バカね。
布団に縫い付けられていた腕を、あやめはそろりと持ち上げた。
男の髪をかき抱き、引き寄せる。
「―――キスして、銀さん」
一瞬だけ、戸惑う気配がした。自分で言ったくせに、狡い男。
やわらかい唇が触れるだけのキスをして、去っていこうとする。逃がすもんですか。
首にしがみついた。
男の薄い唇へ舌を伸ばす。下唇をなぞり、顎髭をそっと食んでみる。
舌と唇が痛痒い。
『…っ、クソ…』
男の囁きは、気のせいかと疑うほどに微かだった。
すぐに舌ごと絡み取られ、あやめの口腔内は男の舌と唾液で満ちた。角度を変えるたびに押し付けられる痛痒さに、ふいに可笑しくなる。
「ぎんさん……」
薄く笑み、こぼした名は、目の前の男への報復。
殺めるほどにきつく、あやめはたくましい首をかき抱いた。


―――本当にバカだわ。
こんなにも心地良い痛みを、あんた以外の誰がくれるっていうの。




20141013 miyako

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