非公開兎物語
□君が君の花をくれたから、僕も僕の花をあげる
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「…」
まだ小さな頃の僕はとっても落ち込んでいた。
貴方は、宝物が目の前で壊れたらどんな気分ですか。
今、その気分です。
「…ぅ」
両親がくれた忍者のフィギュアが目の前で粉砕した。誰かが大事にしすぎたクラリネットを壊した訳が分かる。今なら同情してやる。
僕はそのフィギュアが大のお気に入りで、お出掛けの時もお昼寝の時も、一人でお散歩する時もいつも肌身離さず持っていた。
雨が降る今日のお散歩にも。
ご機嫌だった僕はフィギュアを抱きしめ、カッパ姿で大通りを歩いていた。そこに車が通りかかり、僕に水をかけてきたものだから驚いて転んでしまったのだ。僕の手からすり抜けるように飛んで行ったフィギュアは車に跳ねられ歩道に飛ばされ、ばらばら。
そしてその欠片をかき集める今に至る。
「……もう、止めよう」
涙と雨が混じって落ちた。
「どうしたんだい?」
その声にぴくんと肩を震わせ振り返ると綺麗な金色が大きなひまわりと靡いていた。
僕よりすこし大きい男の子。青い空みたいな瞳に、僕も男の子なのにドキリとした。
「宝物…」
壊した、と口に出す前に両手に乗ったバラバラ死体を見て涙が出てきた。
「壊しちゃったんだね。それは残念だ。そして残念だ。」
「ぅ…ふぐ、ぅ」
「きっと君の宝物にはかなわないだろうけれど…これをあげるよ」
そう言って金の髪の男の子は抱えていたひまわりを僕にくれた。男の子の笑顔は、ひまわりみたいだった。
「わぁ…きれい。あ、でも…君の方が、似合うよ。」
「構わないさ。私は君の可愛い顔が涙でぐしゃぐしゃになるのが耐えられないんだ。だから、君にあげよう。それでは。またいつか、会えるといいな。今度は笑顔で。」
僕の顔は真っ赤だったに違いない。
男の子は風のように去って行った。