非公開兎物語
□天然ダーリン
1ページ/3ページ
「虎徹さんから借りました。YUKATAって言うんですよ」
そうキースさんに微笑んで、くるりと回って見せた。
いつもと違う僕に、ドキドキしてくれたらいいのに。
「とても綺麗だよ。」
でもキースさんはいつものように笑うだけだった。
この人は天使だから、ヨクジョウとか知らないんだ。
「あ、これ女性物のようですね。これはキースさんの分です。僕が着付けてあげますね。」
キースさんが首を傾げていたので、思いだしたようにそう口に出した。
でもね、これ、わざとなんですよ。これも貴方にドキドキして欲しいから。
そして貴方にも浴衣を着せるのは、もっと近づきたいから。
「私もその、華やかな服を着るのかい?」
「キースさんのは男物ですよ。」
帯を巻くときに、僕はキースさんを抱きしめる形になる。それだけでも幸せだった。帯が100メートルあったらいいのに。
着せ終えてキースさんから一歩離れて眺めてみる。
ああ、なんて格好いいんだろう。流水柄の少し入った、深い青や淡い青、美しい青が織りなす市松模様の浴衣は、空の似合うキースさんにぴったりだった。貴方の空に溺れ死んでしまいたい。
「どうだい?」
暫く見惚れてしまったようだ。キースさんは気まずそうにそう僕に質問した。
申し訳ござらん。
でも、本当に、
「とっても…素敵です」
そう、本心を伝えたのに、キースさんはまた笑うだけだった。飛びついて、いいのに。お代官さまごっこ、してもいいのに。
そんなに魅力が無いものかと、少し切なくなる。
「ありがとう。これから…どうしようか。」
笑い返すのが精いっぱいだった。