非公開兎物語

□三日月の永遠
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「三日月って、綺麗ですよね。」


そう言って、イワンは濃厚な金色に手を伸ばした。
隣でそれを見ていたキースは、優しく微笑む。


「僕、三日月の上で寝てみたいです。揺り籠みたいに揺れて、気持ち良さそう。」


それは、ポエマーのような抽象的表現ではなく、純粋な子供心から呟いた言葉だと、瞳が物語っていた。


「…もっと近くで見てみようか。」


不可能なのは二人とも知っていた。
だから、キースは出来るだけ優しい言葉をイワンに与える。


「はい!」


キースは夜のパトロールの時間にそっとイワンを呼びだし、横抱きにした。イワンも応じるように首に腕を回す。
スカイハイの体が宙へ浮かぶ。それから、どこまでも高く高く舞い上がった。


「凄い…ふふ、風がくすぐったいですね。」


「君の事をたいそう気に入っているんだよ。でも、私のものだ。」


風を通り過ぎるように、もっと高くへ舞い上がる。
いつの間にか、金色の三日月は大きくなって二人の元に現れていた。


「わあ…!大きい、やっぱり大きいですね!これなら二人で眠れますよ。」


自分の腕の中ではしゃぐ恋人を落とさないよう、しっかり抱いた。
しかしイワンは大きな三日月に釘付けで、うっとりとそれを見つめている。


「そうかい。わたしはね、もう少し怖いんだよ。」


「どうしてですか。」


「君の綺麗な瞳が、金色に呑まれてしまいそうだ。ほら、体ももう半分ほど呑まれてしまった。」


「違いますよ。お月さまはきっと、僕達が寒いだろうから、金のお布団をかけてくれたんです。でも、貴方が妬いているようですから、帰りましょうか。」


イワンにそう微笑みかけられると、恥ずかしくなって足早に帰路に着いた。


「今日は、私の家に泊まりなさい。一緒に寝よう。」


スーツを脱いで、星屑のシャワーを浴びて、寝室の扉を開けた。


「わぁ、月の寝台だ!」


喜ぶイワンの目先にあったものは、月光に照らされて金色に輝く白いシーツだった。


「ああ、そうだよ。だからイワン君はあんな高いところまで行かなくていいんだ。私の傍にいてくれたら、それでいいんだよ。」


「嘘。今知ったんでしょうに。でも、僕は貴方と一緒に寝たかったんだ。」


金の寝台に二人で横たわった。
ふわりと上からも金色が包み込む。
二人は、呑みこまれても怖くないよう、手を繋いで目を閉じた。



永遠の金色に包まれて、いつまでも一緒にいてね。



三日月の永遠





END





たまには変な会話も!
 

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