忘れない
□第8.5鳶
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side 遙
『じゃあ着替えてくるね』
…そう言って女子更衣室に入って行ったカナンを遙はそっと見守っていた。
その視線には特に意味は無かったものの、ガシッ!!と背後から掴まれた俺の肩。
やはり来たか…。と内心そっとため息をついたのはここだけの秘密である……。
「…真琴」
「ハル、ちょっといいかな?」
「………。」
「分かっているとは思うけどカナンに手は出さないでね。親しくする分には全く構わないけど。それと目は絶対に離さない事」
「……分かってる。お前は少し過保護すぎだ」
「……、自覚はしてるよ。でも心配なんだ」
…心配で心配で、堪らなく大好きな女の子。
遙の中で真琴がカナンに対する気持ちの位置はまさにそこだった。
昔から特にカナンに関して真琴は過保護だとは思っていたが、彼女が目を覚ましてからそれは格段に増したように思える。
この愛情という名の狂気に彼女が押しつぶされなければいいが、どちらにせよこれではウザがられるのでは……?
(…それも自覚していてもこれか………)
「……真琴。」
「ん?」
「焦るな。今のあいつにはお前しか見えていない事は確かなんだから」
「………、でも……」
「教室に居て分からなかった筈がない。カナンがお前をどれだけ頼りにしているかなんてな」
………だってあいつは。
カナンはずっと昔からお前だけを見ていたのだから………。
【初恋は実らない】
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