想いの結晶
□プロローグ
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…………………真紅のハートは、想いの証だ。
しかし情熱を宿したその想い結晶は、最早男には贈る相手がこの世に存在しなかった。
カナン・ミュー。
この魔界の現女王のキャンディ・ミューの実の娘であり、同時にその次女バニラ・ミューの姉であった美しい女性の名である。
男はその女の所謂幼馴染であり、警護を担当していた者でもあった。
そう、“あった”のだ。
彼女は昔死んでしまった。その自身の秘められた大きな力を暴走させて。
「お。やっぱ、ここにいたのか。」
「……………ロビン」
「お前は暇さえあればここに来てるな。まぁあいつの部屋だったわけだし分からんでもないが、明日の女王候補達の前ではもっとマシな顔しとけよ」
「分かっている。もうカナンはこの世にはいないのだから」
「…………………グラシエ。」
「現実は苦しいだけだ。周囲はどんどんカナンの事を忘れ、この部屋も彼女の香りや面影を消し去ってゆく。女王候補に、彼女はいない」
「……………重症だな。そんなに苦しいなら、新たに恋をすればいい。誰も咎めはしないだろうさ」
「ほざけ。俺にはカナンしかありえん」
……………部屋はバニラのように女の子らしいふわふわとした物で統一されているのではなく、大人びたモノクロで統一されていて。
部屋同様上から下まで同じくモノクロの男を深く包み込むかのような錯覚を起こさせるそこは、男にとってまさに唯一心が安らぐ場所だった。
そして男は魔法により形のみ当時のままを保ち続けている部屋のベットの上で苦しいのだと、狂いそうなのだと続けて口にする。
燃え盛る炎のような、熟れた果実のような真っ赤な真っ紅な真紅のハートを胸にたたえて。
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