蒼空の光
□絆
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「え?一緒の車じゃないんですか?」
すがるような瞳で見上げられ、一瞬戸惑う。
(その目、やめろ)
「…総理の車には海司も乗るから」
芙美子の顔から目を逸らしながら答える。
「はい…」
俯く芙美子の頭に、思わず手を乗せる。
「オレは後ろから着いてく。何も心配することなんかねぇだろ?せっかく初めて親子で過ごすんだから、もっと笑ってろ」
ぽんぽんとやさしくたたき、すぐにその手を引っ込める。
(こんなの、オレのキャラじゃねぇ…)
戸惑いを眉だけに残し、前を向く。
目の端で、芙美子が自分を見上げているのがわかる。
(そういう目で見るなって!)
眉がさらに寄る。
車寄せに着くと、すでに黒塗りの車が後部座席のドアを開いて待っていた。
桂木がそのドアを押さえている。
運転席側には海司が、こちらを無表情で見ている。
「昴」
桂木が昴を見て頷く。
「了解」
海司には無言のまま頷いて見せて、昴は自分の車まで足早に向かう。
歩いて行く昴を見つめていると、秘書官に促され、先に後部座席に乗り込む。
続いて総理、秘書官が乗ると、桂木が注意深くドアを閉め、助手席に乗りドアを閉めるとほとんど同時に海司が車を出す。
「多少、道が混んでいるかもしれませんが、コンサートの30分前には到着できると思われます」
「そうか。ありがとう」
総理が桂木の言葉に鷹揚に答え、芙美子を見て微笑む。
芙美子はどうにか強張りながらも笑顔を返すが、何を言ったらいいかわからず、なんとなく前を向く。
ルームミラーに、真っ直ぐ進行方向を見つめる海司の真剣な眼差しが映る。
芙美子の視線を追って、総理も前を見る。
「そういえば秋月君は、芙美子と幼なじみだったね」
「は…」
突然警護対象者に話しかけられ、海司は驚きながらもどうにか返事をする。
「芙美子はどんな子供だったが、聞かせてくれないか?」
「えっ!?」
驚く芙美子をミラー越しに見て、海司がニヤッと笑う。
「そうですね…ピアノはあの頃から好きでよく弾いてたけど、外に出たらスカート破くくらい遊んでました」
「ちょっと!スカート破いたのは1回だけでしょ!?しかも海司が登れって言うから木登りして枝に引っかけて破いたんだから海司のせいじゃない!」
「嘘つけ!俺はやめとけって言ったのにお前がどうしても登るって…」
「海司!言葉を慎め!」
「…すんません」
海司を叱ると、桂木は後部座席を振り返る。
「総理、芙美子さん、申し訳ありません」
首筋に手を当てて謝罪する桂木に、総理が微笑む。
「いや、秋月君と芙美子が、良い幼なじみだということがよくわかったよ。ははは」
軽やかに笑う総理を見上げ、芙美子の頬にも自然と笑みが浮かんだ。