03/16の日記

11:46
過去拍手
---------------

冬季限定夢(レア)







『恭弥先ぱーい。見回りの時間ですよー』


「・・・いい。行かない」



ちらっと窓の外を一瞥して恭弥先輩は言い切った。

そして何事もなかったかのように書類整理を続けてる。



『いいんですか?並中の風紀が乱されてるかもしれませんよ?』



わたしが尋ねると一瞬ピクッと反応したけど、それでも応接室から出る気にはならないらしい。



「いいよ。こう寒いと群れてる奴もいないし」



・・・寒いから外に出たくないのはあなたでしょう。

なんて突っ込みは怖いからしないけど、恭弥先輩は全く動く気にならなさそうだったからわたし1人で行くことにした。





応接室のドアを開けた途端に戻りたくなった。

確かに廊下の空気は冷たい。


それでも後ろでにドアを閉めて、まず校舎の見回りから始める事にした。




放課後だけあって教室は吹奏楽部以外は静かだった。

途中で窓が開いている教室があり、室内に入って窓を閉めようと手を伸ばした。

入ってくる冷たい風に思わず身体が震える。


・・・普通窓開けないよ。掃除のときに開けてそのままとか?

見回りする人の身にもなってよね。


胸中で文句を言いつつ戸締りをした。




校舎内を一通り回ってから外に出た。

なんとなくもの寂しい冬の風景に感じ入ってしまう。


つい最近まで鮮やかな赤や黄色に染まっていた葉は茶色くなり、力なく風にゆれハラリと落ちる。


・・・なんか寂しい。


そんな気持ちは運動場まで来て吹き飛んだ。

野球部やサッカー部が声を張り上げて練習している。

すごい活気だった。


よくこの寒空の下であんなに動けるな〜

と変なところに感心しながら運動場を通り過ぎた。




異常もなさそうだし応接室に戻ろうかと思ったところで、わたしは異常に出会ってしまった。




3年生の不良、数人が自動販売機の前で群れている。

ううん。わたしはどこかの風紀委員長と違って群れてるだけで攻撃したりしないのだけど、自動販売機にいたずら書きをしているのを見過ごすわけにはいかない。


・・・なかなか下らないことをやってくれるじゃない。

っていうか恭弥先輩、いますよ?寒いのに群れる奴!!



『あの、学校の備品に下らないことするのやめてもらえますか。

っていうかメーカーに返さないといけないものですから。』


「あぁん?んだよテメー。えらい子ぶりやがって」



結局、これは力で片付けるしかないのかな?

と思案してたら折りよくもわたしの携帯が鳴った。

それも着信相手は風紀委員長様だ。



『はい。どうされましたか?風紀委員長』



わざと"風紀"を強調して電話に出ると、目の前の不良たちの顔から表情が消えた。



《君、遅いよ。いったいどこで油売ってるの?》


『自動販売機の前で校則違反者を取り締まってるところですが?』



わたしが答えるや否や、不良たちは一目散に逃げ出した。


全く。風紀委員長が怖いなら、最初から校則を守っていればいいのよ!


《・・・すぐに行くから、そこにいて》


・・・あれ?電話切れちゃった。

なんか最後の言葉を聞き逃した気がする。


なんて言ってたんだろ、恭弥先輩。

んー・・・早く戻ってこないと咬み殺す?

戻ってきてお茶を煎れろ、とか?


必死に考えながら、電話の切れた携帯を見つめていると廊下を走ってくる音がして、その足音が近づいてきたと思ったら、いきなり後ろから抱きしめられた。

背中に広がる体温。

頭上に聞こえる少し荒い息。

腰に回された力強い腕。


これはもしかしなくても・・・



『・・・恭弥先輩?』


「怪我とか、ない?何もされなかった?」


『大丈夫です。風紀委員長って言ったらすぐに逃げていきました』


「そう。  ・・・君、冷たい」


『1人で見回りしてたからですー』


「・・・ごめん」


『!』



ちょっと嫌味を言っただけのつもりなのに、まさか謝られるとは・・・!


でも、そう言ったきり恭弥先輩は動かない。

それどころかわたしを抱きしめる腕に、さらに力が入った。




なんかいまさら緊張してきた・・・!!



『恭弥先輩! 大丈夫ですからもう離してください!』


「やだ」


『(やだ、ってかわいい・・・じゃなくて)

やだじゃないです。もう帰りましょう?』



そういうとしぶしぶ、といった感で離れた。

離れるとそれはそれで寂しいような・・・ってわたし何言ってるの。


恭弥先輩はそのまま自動販売機のほうまで歩いていく。

あれ?もしかしてお茶を煎れろっていうわたしの想像は当たってたのかな?

めんどくさいからここで買っちゃうとか?



ピ ガシャン



「はい」


『!』



恭弥先輩は買ったものを自分で開けるのではなく、わたしに差し出した。

手渡されたのはホットのミルクティー。


身体が冷えてるから、買ってくれたの?



『あ、ありがとうございます・・・!』


「別に・・・」



ほら帰るよ、と言ってフイと向こうを向いてしまう恭弥先輩。


素っ気ないけど、心配してくれて

不器用だけど、思いやりを隠してるだけで。



優しいあなたが大好きです。






「ねぇ、それ僕にも一口頂戴。」

『いいですよ。はいどう・・・ん、 ふぁ』

「・・・甘すぎ」

『な、何するんですか!!?』

「一口頂戴、って言ったじゃない」





前へ|次へ

コメントを書く
日記を書き直す
この日記を削除

[戻る]



©フォレストページ