英国式庭球S
□手
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「手塚、君の手って冷たいんだね」
「どうしたんだ?急に」
不二が何の前触れもなく、日誌を書くためにペンを持っている手とは反対の方の俺の手に、自分のそれ重ねてきた。それだけの事で心臓が飛び出しそうになる俺は、体調でも悪いのだろうか。
何かの病気の末期なのでは、と思いたくもなる。
「動いていないからではないのか?」
「ふーん……」
不二が分かったような分からないような顔をして、握ったままの俺の手と不二の手を交互に見比べた。
「寒くなると、血液が十分に行き渡らなくなって、手や指先といった四肢の末端は冷たくなるらしい」
その眉間に段々と深い皺が刻まれるのに苦笑して、理由を問われる前に解説をしてやれば
「なんで血液が行かないと手が冷たくなるの?」
「そこまで説明するのか?」
普段あまり披露する機会のない俺の講義に感動したのか、不二が子供のような好奇心をそのままに身を乗り出してくる。
「血液が足りないと手が冷たくなるのは―、」
「なるのは?」
期待に満ちた眼差しに肩を竦めて
「それは俺にも分からない」
「なにそれ!ひどい!」
期待して損したーと笑う不二に「すまない」と返して、触れられたままの手をそっと握った。