短編
□ね、散歩行こう?
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「入江さん。暴風雨警報出てますが」
「まだ降ってないでしょ?」
晴天が続いていた中、今日は生憎の暴風雨警報が発令され、珍しく練習の中止と指示が出され暇を持て余す人が多数。
102号室も例外ではなく、入江が外を見つめながら「散歩行こう」と言いだしたのだ。
雨に打たれたぐらいで風邪をひくような軟な身体ではないが、雨に加えて暴風まで吹いていては、さすがの徳川もお手上げだ。
「外は強風吹いてますよ」
「いいじゃない、すぐそこまでにするから」
そういう問題じゃない、と言えたらどんなに楽だろうか。
「だから、何でこんな時に行くんですか」
わざわざ風邪をひきにいくような真似はしたくない。
「だって、わくわくするでしょ?」
心なしかいつもより輝いて見える瞳は、幼さが倍増されているように思えてきた。
「……子供じゃないんですから」
「君の方が楽しそうな顔してるけど?」
してない、断じてそれはない!
と否定する間もなく、部屋から引っ張り出されてしまった。