School
□練習試合
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県内でも強豪校と呼ばれる白鳥沢学園バレーボール部の練習相手は、大学生や社会人とやることが多い。
今日も県内でも強くて有名な企業との練習試合が組まれている。
「若利」
「・・・あぁ、榎月か」
十分なウォームアップが済んだのだろう彼氏に話かける。
「来てくれたんだな」
「うん。来てって言われたし・・・。
それに、ずっと若利のバレーしているとこ見てみたいと思ってたからさ」
「そうか」
若利は優しく笑った。
私は今日まで若利がバレーをしているところを見たことがなかった。
うちのバレー部が県内有数の強豪校というのは聞いたことがあったが、あまり興味をもったことがなかったし、
ましてや自分は進学コースのクラスなので浮いた気持ちばかりでいることは許されない。
それなのに気になってこうしてみるようになったのは、若利と付き合い始めたからである。
「付き合ってほしい・・・」
しゃべったこともない、まともに一緒になったこともない、うちの学校の有名人に告白されて、私は「待ってください」をかけた。
それから、よく会話をするようになって、慣れるまでは朝の登校の時間しか会わなかったのも、いつしか休み時間や休日にも会うようになった。
そして、段々お互いのことが分かるようになって、そのうちに今の形に収まったのである。
で、今日は付き合い始めて若利のプレイしているところを生で見るのである。
回りには普通の練習試合にしては多いらしい観客でいっぱいだった。
その中には他校の偵察の人なども入っているのだろう。
若利曰く「見られることで俺たちが弱くなることはない」らしい。
その自信はどこからくるのだろうか。
最初のうちは分からなかった。
練習試合がはじまった。
ゲームが進むにつれて、どちらも強いのが素人の自分にもわかった。
ただ、白鳥沢の方が優勢で、さらにそれを後押ししてるのが、若利だった。
エースだとは聞いていたが、これだけ周りを圧倒していると説明されずとも納得できてしまう。
日本代表に選ばれる、というのもなんとなくわかった。
だけど、
これが本当に自分の彼氏なんだなと思うと、すごく胸がキュンッとした。
タイムの間、みんながコーチやら監督のアドバイスを受けているときに、若利と目が偶然あった。
その時、にやりと笑われた。
まるで「見てろ」とでもいうように。
そしてタイム終了の合図が出される。
そのあとの若利と言ったらもうサーブやら速攻やらがキレッキレで、少なくとも私の目にはすごくかっこよくて、輝いてるように見えた。
嗚呼、これが本当に私の彼氏なんだろうか・・・
なんて、浮いた考えを起こしていると、神様からの罰が下された。
「榎月!!!!」
名前を呼ばれて気が付いたころには、もう遅かった。
*
気が付けばそこは保健室で、
痛い頭を起こしながら起こったことを思いだせば、試合中にやってきた流れ球にあたったことを思い出す。
昔から反射神経はいい方ではなかったので、さっき見ていたような球が自分に降りかかったことを想像すれば、あんなの避けきることなんてできやしない、と落胆した。
すると、カーテンが急に開けられた。
そこには、相当急いできたのか、息を切らした若利が立っていた。
「あれ?試合は?」
「今終わった」
「そっか。・・・で、結果は?」
「聞くまででもない。」
「・・・そう。おめでとう。」
「あぁ・・・」
少しの沈黙の後、若利は私の頭を撫でてきた。
「・・・大丈夫か、榎月」
「うん。若利のプレイに見とれすぎた罰が当たっただけだからさ?」
「・・・・・・お前」
若利は顔を赤くして俯いてしまった。
「え?私、なんか変なこと言った?」
「いや、何も・・・。
・・・そう思ってもらえたなら、頑張ってよかったな。」
「見られても変わらないんじゃなかった?」
「見られて弱くなることはない。
が、お前に見られるなら、俺はもっと強くなれるだろうな」
「そっか。
なら、今度試合ある時も身に来てもいい?」
「あぁ。もちろんだ。」
練習試合じゃなくて、本当の試合の時のアナタは、
きっともっとカッコいいんだろうな
〜IH出場決定後〜
(IH出場、おめでとう)
(ありがとう。お前がいつも応援してくれていたおかげだ)
(そんなことない。若利の実力だよ?)
(・・・IHも見に来てくれるか?)
(行けるようには努力します・・・)
fin.