文【P】

□とある男の一日
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今にも雪が降りそうな身体の芯から冷える寒さに、空を覆っている雲は落ちて来そうに重くて。

生憎な天気ではあるけど、それでも今日という日は二度と来ないし、好きな服を着て遊びに行こうって考えただけで気怠さは何処かに飛んで行って、こんな天気も悪くないって思える。
いつもより少し重ね着したコーディネートが出来るし、鼻歌なんか歌ったりしながら何処に行って何をしようか考えて。

ノープランのまま、ぶらぶらと一人でお気に入りの洋服屋とかアクセ屋に行って店員と話をしながら品物を物色して、休憩がてらカフェでホットコーヒーの揺らめく湯気を見ながら一息ついたり。
何だかんだしてる内に、この時期はすぐに辺りが暗くなってしまうのだけが淋しい気もする、でも思い返せばどんな季節も日が暮れる頃は何だか切ないものだ。
小腹が空いて露店のファーストフードを歩きながら食べてる内に、段々と周りの店は閉店時間になる、だけど真っ直ぐ帰るのは時間が勿体無い気がして行きつけのバーに足を運ぶのが最近のオレの定番ルート。
美味い酒を飲みながら気の合うダチが出来たり、常連客やマスターと話も出来るから、こんな一人の夜もあそこに行けば退屈はしない。



「…いらっ
しゃい」

「ちーっス!…今日は空いてんな、寒くて出歩きたくねぇのかな?」

引き戸を開けたらカラコロ鳴るベルとマスターの声に迎えられて、いつも座るカウンター席に足を運ぼうと思ったけど先客がいて。
二、三椅子を空けたカウンター席に座ったら、いつものウィスキーをロックでマスターが出してくれた。

「流石!サンキュー、マスターも飲みなよ?あっちのヤツにも飲んでるモン出してやって?」

「今日は一段と冷えますね…有り難う御座います、頂きます」

周りを見渡すまでもなく店内にはオレ以外に客は見慣れない奴が一人だけで、店内BGMのジャズだけが心地良い音程で響いてる、たまにはこんな夜もいいかと思いながらグラスを揺らして。

「…あちらのお客様からです」

「……」

マスターが手を翳してオレからだと奢った酒をヤツに出すと、オレを見て軽く会釈をした。

「では、頂きます…」

「…お、おう」

思い当たる節があってヤツから目を離せずにいたら、マスターが乾杯に来てさり気なく視線を戻したら酒を煽った。

華奢な身体付きに赤目で顔左半分包帯の透き通る様な青い肌、髪色こそ違うものの…。
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