ふわゆらカゲロウ

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「紗綾、三成、左近」

「お父様!」

「「秀吉様」」


わいわいと皆で騒いでいると、お父様が歩いてきた。
全員がその場に正座をし、お父様に平伏す。


「うむ、良い」


お父様の声に下げていた頭を上げると、優しく頭を撫でられた。
顔を見ると、手つきと同じように優しい表情をしていた。


「紗綾、三成、左近。お前たちに真田と共に上田へ行ってほしい。同盟を組んだのだ、豊臣の代表として挨拶に行ってくるがよい」

「!かしこまりました」

「おぉ、秀吉殿にお前さんたち。ここに居たか」

「官兵衛か」


お父様の後ろからひょこっと顔を出したのは官兵衛で。
口振りからして私たちを探していたようだ。


「官兵衛さん、どうしたんすか?」

「ちいと妙な噂を小耳に挟んでな」

「噂…?」

「あぁ、瀬戸内での戦中に空から天女が降ってきたんだとよ。そして長曽我部と毛利が同盟を組んだ」


その言葉にその場の誰もが眉をひそめた。
同時に私は天女の存在に勘づいて。
あの時の私の勘が当たったことに苛立ちを覚えた。
天女が現れたことにより、今のこの平穏な日々が壊される気がしてならないのも苛立ちの原因だったりする。


「妙だね、ホント。鬼の旦那も毛利の旦那も仲悪いってのに」

「うむ…、一体何があったのでござろうか」


長曽我部と毛利はずっと対立していて、小競り合いを続けてきたのに、急に同盟を組んだ。
どうも何かありそうな雰囲気だ。


「まぁよいわ、紗綾。お前たちは上田へ行くがよい。この事については追々報告しよう。我と半兵衛、それに刑部と家康や官兵衛に又兵衛も居るから大阪のことは気にせずとも大丈夫だ」

「「「はっ!」」」


バッと礼をし、了承の意を示すとお父様は微笑んで私たちの奥、奏太達を見た。


「…そこの忍よ」

「!」

「紗綾の、双子と言ったな…」

「ええ、今は紗綾様は貴方様のご息女となりましたが」

「いつでも紗綾に会いに来るがよい。前世と言えど、紗綾の双子。お前にも前世の記憶があるだろう?」

「!…あります」

「今は立場が違うが、確かに繋がりはある。我はそれを大事にしてほしい」

「っ…ありがたき、幸せ…!」


奏太が感情を押し殺したように言いながら、頭を下げた。
私もお父様を見て、頭を下げる。


「お父様、ありがとうございます!」

「大切な家族だ、大事にせよ」

「はいっ!」


返事をすると、お父様は微笑んで踵を返し、歩いていった。
それを見届け、私は振り返り奏太を見て笑った。


「……」

「……あー、紗綾様?」

「なに?」

「上田へ行く準備…しません?」

「そうだね、準備してこよっか。私は先に行ってるね」


今とても機嫌が良くて、笑顔で頷く。
自室に向かって歩き出した。


「……っ、反則っすよ紗綾様…」

「やはり左近、紗綾様の事を」

「三成様もじゃないっすか」

「っっ黙れ!!」

「はいっ!すんません!」

「あは〜、何、旦那たちは姫様に惚れてるんだ?」

「…幸村様?顔赤いですよ?」

「………さ、すけ…」

「大将?どうしたの、具合悪い?」

「……心ノ臓が先程からずっとうるさいのだが…」

「「「「!!」」」」

「た、大将に…春が来た…!」

「隊長…!」

「忍二人が異様に感動してる…」

「くっ…貴様まで紗綾様に…!」


私が居なくなってからそんな会話をしていたなんて、知るよしもなく。
私は部屋で準備を進めていった。










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