VOCALOID

□グッドラック
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瑠香さんが遅番だったある日、僕が作った朝食を二人で食べようとしていたときのこと…
「鈴ちゃん連くんいるー?ちょっとかくまってほしいの!」
そう言って堂々と僕たちの家に進入し、なぜか僕が作ったベーコンエッグを頬張っている彼女。
「あの…未来さん?どうしたの?」
よく見れば彼女はなかなかの美貌だと思う。緑がかった髪を二つに結い、頬は薄紅を差している。
「えへへ…今日は私の誕生日なの。」
照れたように彼女がそう言うと、隣に座っていた鈴がかくんと首を傾けた。
いったい、どういう事情なんだろう…
「いや…それがね、柏が私用にケーキ作ってくれるらしいの。パーティーまで内緒にしたいから、未来はどこか行っていてって…」
「…それで、朝ご飯も食べずに…?」
「いやぁ…朝ご飯は食べたよ?柏の作ったみそ汁とご飯。」
じゃあ、どうしてここでさも当然のように朝ご飯を頬張っているんですか!?
そう問うと、「だって美味しそうなんだもの!」と、答えた。

彼女は…一体どんな胃袋をしているんだろう…

朝食を食べ終えた僕たちは、ボードゲームをして遊んでいた。
「未来ちゃん、マス全部埋まったよ!!」
「あ…ほんとだ…いちに…さん…やった白の方が多いよ!!」
「えーまた負けた!!もう一回!」
「えへへ…望むところだよ!」

そのとき、軽やかなメロディーが部屋に響く。
「未来ちゃんの携帯じゃない?」
「うん…」
そういって、未来さんが携帯に出た。
「柏…?うん…出来たの!?やったぁ!冷蔵庫…?うん…開けないようにする。じゃあ今から帰るね。…」
パチンと携帯を閉じる音がして、未来さんがこちらを振り向く。
「もう帰って良いみたいだから、帰るね。…あと二人とも、夕方の…6時頃にうちにおいで。…朝ご飯のお礼。」
そう言うと満面の笑みを浮かべて我が家を出て行った。

「プレゼント買おうね!ねぇ連。」
「そうだね…。」
時刻は5時を少し回った頃、初音邸への道を少し寄り道して…
寄ったのはアンティークの趣味の良い雑貨屋だった。
数々の雑貨…写真立てやアクセサリー…を見回って、僕たちが目に留めたのは葡萄の柄のティーカップだった。
こういうときは、特に僕達の息がぴったり合う。
「これ…」
「いいよね…」
決して安い物では無かったけど、ありがたいことにお小遣いには余裕がある。
ピンク色の包装紙に小綺麗に包まれたプレゼントを見て、僕らは微笑みあった。


初音邸の目の前、古びたドアノッカーを2回たたくと、中から女性が出てきた。
白銀の長い髪に白い目…柏さんだった。
「ようこそ…。」
彼女は僕たちに柔らかな笑みをむけ、迎えてくれた。
「未来は、中にいるわ…というか…普通にインターホンも使えたんだけど…」
思い返してみれば、ノッカーの隣にインターホンがあることに気がつく。
「なんか1回使ってみたかったんだよ!!ねぇ連。」
「ああ…うん。」
僕は単に気づかなかっただけなんだけど、そう言うことにしておこう…

案内された食堂には、数々の料理が並んでいた。
野菜の洋風煮、ピザやパスタ…もちろん大きなケーキ…
「すっごーい!!これ全部柏ちゃんが作ったの!?」
大きな声で驚く鈴に、少し戸惑いながらも微笑みで返していた。
「ええ…誰でもない未来のためだから…腕をふるったの…」
頬をわずかに朱に染めた彼女は、沢山の食器を一人で運んでいた。
はじめは順調に運んでいたのだけど…柏さんがテーブルの脚に足をぶつけた。
「痛っ…」
ぐらぐら…揺れ動く食器…
「柏…危ない!!」
僕や鈴が動くより、誰より先に動いたのは、席に着いていた未来さんだった。
危機一髪…食器も柏さんも、未来さんに支えられて無事だった。
「ごめんなさい…未来…私迷惑ばっかかけて…」
「いいんだよ!!柏が無事なんだから!!本当は食器なんてどうでもいいの。」
事件はあったものの、パーティーは順調に進んでいた。
話には聞いていたけど、柏さんの料理は本当に美味しかった。
「そう言えば、未来さんは何歳になったの…?」
「えっと…せ…16歳!!そうだった16歳になったよ!!」
言葉のつまりが気になったけど、それを聞いて、ケーキに16本のろうそくを立てる。
火を付けると、橙の炎がゆらゆらと揺らめいて、とても綺麗だった。
未来さんがケーキを吹き消す。一息では消えず、二回目に全てが消えた。
「おめでとー!!」
いっそ主役より楽しんでいそうな鈴が、ハイテンションでお祝いの言葉を告げた。
主役の未来さんは、いつもの明るい笑みでそれに応えるのだった。

「あと、これはプレゼントにとおもって…。」
「あら…開けて良いの?」
包みを受け取った彼女は僕にそう問う。
「ええ。もう未来さんのものですよ。」
包みを丁寧に破った未来さんは中身を取り出すと歓声ををあげる。
「わぁ!ティーカップ!嬉しいな。私、毎日これでダージリンを飲むよ!」
そう未来さんが言うと、隣にいた柏さんがすこしむっとしたように見えた。
それに気づいたのか気づいていないのか未来さんは、僕に耳打ちをする。
「今日はありがとう。もうパーティーはお開きにさせてもらっていいかしら?それじゃ…鈴ちゃんと仲良くね。」

…僕が鈴の手を取って玄関を出るのを確認すると、未来さんは、柏さんの腰を抱いて…屋敷の奥に姿を消した。
僕は振り返ってそれを見ると、一言つぶやいた。
「グットラック…」
 

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