TOA
□かわいいひと
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ここはグランコクマ。
今日もここは平和な空気と少しの騒がしさを纏い、時間は世話しなく流れていく。
「ガイーーっ!」
ドンッ
「うわ…っ」
ぎゅうーーっ
聞き慣れた元気な声が背中に響いたかと思えば、突然の衝撃と圧迫感を覚えてふらついてしまった。
「名前、いきなり抱きついてきたら危ないだろう?」
そう言って振り返れば、背中には可愛い笑顔を浮かべた名前がいた。
「えへへー、ごめんね?」
彼女はそう言いながらも、なおも俺から離れようとしない。
「(…胸が、当たっているんだが……(汗))」
一人、悶々と腰に当たる柔らかさに苦笑いした。
「それで、俺に何か用かい、可愛いお嬢さん?もしかしてお使いでも頼まれたのか?」
「あ〜〜っ!また子供扱いしたあ〜〜!!」
ニッコリ微笑んで見せれば、それとは対照的に彼女は頬を膨らませてしまった。
「悪かったよ。で、どうたんだい?」
それがまた可愛くて、ニッコリ笑えば、彼女は少し拗ねたように口を尖らせた。
「別に、ただ見かけたから話しかけただけだもん…」
「そうか、それは嬉しいな。朝から君に会えるなんて、俺はツいてるよ」
これは本当。
朝から好意を寄せている人に会えるなんて、頬が思わずゆるんでしまう程の嬉しさだ。
「ま、また…そうやっ、て…っ、…あぁ、もう…!この天然タラシっ!////」
素直な感想を述べれば、彼女は顔を真っ赤に染めて俺から体を離した。
「君の前でだけ、ね…?」
「〜〜〜っ、もう知らないっ///」
顔をより真っ赤にさせて名前は走り出した。
走り出した彼女は走ったまま俺に顔だけを向けて、バカあほ変態、天然タラシ、腹黒エセ紳士、などと俺を罵倒する。
そんな彼女も可愛いと思ってしまう俺は、きっと重症だ。
「前向かないと転ぶぞ〜」
そう声をあげると同時に、名前は思いきり頭から目の前の噴水にダイブした。
バッシャーーンッ!!
「名前、大丈夫か!?」
遅かったか、と急いでかけより手を引き上げると、彼女はけほけほっ、と咳き込み、眉を八の字にした。
「……ぷっ、くく、……っ!」
全身ずぶ濡れになって、今にも泣きそうな顔を見ていると、つい、吹き出してしまった。
「……うっ、わ、笑わないでよ!!////」
「悪い悪い、大丈夫かい?お嬢さん?」
そう言って頭を撫でると名前は顔を暗くした。
「……………し……で、よ…」
「……、…名前?」
聞き取りにくい弱い声に心配になって、顔を覗き込もうとすると彼女は思いきり顔をあげた。
「子供扱いしないでよっ!!」
「え……?」
普段から子供扱いするな、とは言われていたが、ここまできつく、はっきりと言われたことはなかった俺は目を見開いた。
「いつまで私のこと子供扱いするつもりなの!私もう18だよ!大人だよ!?子供なんかじゃないもん!!」
声を張る名前をとりあえず落ち着かせようと頭を撫でようとするが、パシッと、振り払われてしまった。
「…名前……」
「…っ、……グスッ………ウッ…」
「名前、俺は……、
キミのことを子供として扱ったことなんて、一度もないよ……」
「……え………?」
今度は彼女が、俺の言葉に目を見開いた。
「俺はいつでも、キミを女として見ていたし、子供だなんて思ったことはない」
「うそ……」
「嘘じゃない」
名前はどうも俺の言葉を疑っているようでまた、うそ、と繰り返した。
「だって……」
「わからないなら、……教えてあげようか?」
「……え?」
俺は彼女の今だに濡れた頬に両手を添えて、そのまま、―――口付けた。
「んっ……」
漏れる彼女の声にクスリと笑う。
唇を離すと、顔を赤く染めた彼女がいた。
「ほら、わかったか?これが俺の気持ちだ」
「………うん///」
小さい返事は空気に溶けて消えてしまったが、俺の耳にはちゃんと届いた。
可愛くて、また口付けた。
「好きだよ、名前」
そう呟いてから、フッと我に返った。
ヒソヒソと、四方から黄色い声が聞こえてきたからだ。
見渡すと、あちこちから視線を向けられていたことに気が付いた。
「「……////」」
恥ずかしくて、お互い顔を赤く火照らせて、それがおかしくて二人で笑った。
かわいいひと、
俺にとって世界で一番、
大切な、
大切なひと
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