僕彼女
□僕と彼女と万華鏡
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僕の日課は、学校の屋上で紅色の和紙が張られたこのお気に入りの万華鏡を覗くこと。
昼休みになればいつもここに来て、万華鏡を覗き込む。
男の癖に万華鏡なんて見るなよ、とは是非言わないで欲しい。
これにはれっきとした理由があるのだから。
それは――
「あ、また万華鏡見てる!」
『――っ!』
頭上から聞き慣れた声に僕は肩を揺らし、そちらに目線を移した。
視線の先には、綺麗な栗色の髪を風に揺らしながら、しばみ色の瞳をパチパチと瞬きさせる僕の幼馴染みがいた。
『(……やっぱりこの万華鏡みたいな人だなぁ)』
彼女は僕と同じ16歳のはずだ。
なのになぜこの子は、こんなに大人びていて綺麗なんだろう。
それは私が貴方よりも精神的に大人だからよ。
以前、この質問を彼女に投げ掛けてみるとそんな答えが返ってきた。
僕は少しムカついた。
僕だって、他の同級生の奴らと比べれば大人なはずだ。精神的に。
そう言えば、女と男を比べるな、と言われてしまった。
やっぱり少しムカついた。
でも、言い返す気にはならなくて。
多分それは、口では彼女には勝てないという、僕の防衛本能がそうしたに違いない。
「万華鏡、確かに綺麗だし私も好きだけど、貴方はちょっと異常じゃない?好き過ぎにも程があるわよ」
ま、別にやめろとは言わないけど。
そう呟いて彼女は僕の横に腰かけた。
『この万華鏡だけは手放せないな……』
ポツリ、そう言った僕に彼女は首を傾げる。
「どうして?」
そんな彼女を一瞥して僕は空に向かって突き上げた万華鏡を覗き込みながら口を開いた。
『だって、この万華鏡はキミだから』
「……え?」
僕は万華鏡を覗き込んだまま言葉を返す。
『笑ってるキミも、涙を流すキミも、怒ったキミも、楽しそうなキミも、……全部綺麗で、
まるでこの、
――万華鏡みたいだから――』
僕はそこまで言って、コロコロと万華鏡を手のひらの中で転がせる。
『絶対に、手放したくない。……?』
そこで、ふと、いきなり黙りこくった彼女に疑問を抱き、視線を彼女に移した。
『……』
どうして彼女は綺麗な顔を真っ赤にして俯いているのだろうか。
そんな風に俯いていては、僕の大好きなキミの顔が見えないじゃないか。
僕は大好きな顔を見るために、彼女の顔を覗き込む。
すると、彼女は自慢の綺麗な手で僕の頭をパシリと叩いてきた。
決して痛くないその攻撃に僕は頭を?を浮かべることになった。
『どうしたの……?』
僕の無神経な質問は、どうやら彼女を怒らせてしまったらしい。
彼女は綺麗な真っ赤な顔にシワを寄せ、グッと僕を睨み付けた。
「あ、貴方が……、貴方がおかしなこと、言うから……っ」
『え?僕、何か変なこと言った?』
僕がそう聞き返せば彼女は目を見開いて、また眉間にシワを寄せた。
「はあっ!?無意識な訳!?有り得ない!あんな殺し文句言っておいて!!」
珍しく怒鳴り散らす彼女を見て、そこでやっと気が付いた。
あぁ、キミは照れていたのか……。
そう自分で脳内整理を済ませて、僕は大好きな大好きな彼女を抱き締めた。
「……ちょっ!?」
抱き締めた体は柔らかくて温かくて、僕の頬に触れた栗色の髪は想像していた以上にサラサラしていて、僕はその髪に軽くキスをした。
「あ、貴方、なにしてっ!」
『好きだよ、初めて会った頃から今日までずっと、これからもずっと……』
「〜〜っ!」
ねぇ、無理だと思って諦めてたけど、僕にも出来たみたいだ。
キミを言い負かすことが。
「何言ってるのよ、バカ。私だってずっと好きだったわ。初めて会った頃からずっと、これからだって大好きよ、愛してるわ」
前言撤回。
やっぱり僕は彼女には敵わない。
いや、もう勝ち負けの考えはやめよう。
だって、ずっと手に入れたかった僕だけの万華鏡が今、僕の、僕だけの人になってくれたのだから。
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