ぬら孫

□から傘回して下駄の音
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ぽつり、ぽつりと降り出した雨。

生憎傘は持っていない。


仕方がないので、雨宿りのために屋根のある場所へと避難した。


「こまったわ…、御夕飯がまだなのに…。」


夕飯の買い物に来ていた若菜は、買った物が濡れてしまわないように自分の足元に置いた。



「雨…やむかしら…。」


しばらく待ってみたが、いっこうに止む気配はなく、それどころかさっきより雨が強くなってきていた。


「どうしよ…。」

走って帰るにも、自分は着物に下駄と走りづらい格好をしている。


「……しょうがない、濡れてかえりましょうか。」


そう思い、雨の中に歩きだそうとした時。




「お嬢さん、お困りですか?」

から傘をさして現れたのは、鯉伴だった。


「鯉伴さん!!」


「傘がないようでしたら、私が送ってあげますよ。」


そう言い、買物袋をもつ鯉伴。

「フフっ…なら、お願いしようかしら。」


「承知いたしました。」


二人で一つの傘に入り、帰路につく。



若菜が鯉伴とこうして、帰ることは久しぶりだった。


「鯉伴さんとこうして帰るのも久しぶりですね。」

「ん、そうか?」

「はい、いつもは間
にリクオがいますし。」

「そういや…そうだな。」



二人だけ、っていうのは久しぶりでそれがとても嬉しくてつい笑みがこぼれた。


「なんだ若菜、そんなに嬉しいか。」


「とっても!なんだか、三人でいるときとはまた違った幸せだなって思って。」



そう言いまた笑みを浮かべると、鯉伴が屈み込んだ。




「俺も、嬉しいよ。」





そして、傘の中で重なった二つの唇。


幸せが体中に染み渡った。


唇が離れ目と目が合うと今度は手がつながり二人とも歩きだした。



「こうして二人だけっていう時間はやっぱいいな。」

「フフ、リクオに怒られますよ。」

「リクオは家にいる間、ずっと若菜にべったりだからな。…こうして若菜を独占できる時間がほしい。」

「鯉伴さんは甘えん坊ですね。」




カラン、カランと響く下駄の音。

楽しげにくるくると回る傘。




いつの間にか止んでいた雨にも気づかず、二人は一つの傘の下で幸せそうに寄り添っていた。



 

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