ぬら孫
□鯉しくて
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しばらく二人でひなたぼっこをしていると、鯉伴がぼそっと言った。
「若菜…本当に俺と一緒になってよかったのか?」
「え?」
「いや、俺はお前と一緒になれて嬉しいけど…若菜は後悔してないかなって……」
若い女の子が妖怪の任侠一家に嫁ぐ。
知り合いもいなく、頼りになる人もない。
そして、なによりも危険に巻き込まれることになる。
鯉伴はそれがすごく心配だった。
若菜が帰りたいと言ったら…
いや若菜が帰りたいといっても帰さない。
けど…。
鯉伴が不安で俯くなか、若菜は少し微笑んで言った。
「こいしくて…」
「え?」
それは和歌などでよく使う言葉だった。
「鯉伴さんならしってますよね?」
「あ、あぁ…でもそれがなんだっていうんだ?」
不思議がる鯉伴をよそに、若菜は一瞬だけ澄みきった空を見た。
「普通、こいしくての"こい"は恋心の"恋"をつかいますよね。
でも、私の"こいしくて"は他とは違うんです。」
「他とは違う?」
「はい。……私のこいしくての"こい"はね、鯉伴さんの鯉で"鯉"しくてって書くの。」
「"鯉"しくて…」
若菜はとても嬉しそうに話す。
「私の恋は、鯉伴さんしか有り得ないの。鯉伴さんとの恋しか知らないし、知りたくないの。鯉伴さんが恋しくて、恋しくて仕方がないの。」
「…。」
「だから、私の"恋"しくては"""鯉"しくてになるの。
………私はこんなにあなたを愛してるわ。決して離れたりしない。だからそんなことで悩まないで。」