10000hit 小説

□募る想い
1ページ/2ページ

頼むから


もう、これ以上・・・。





「若菜!」

「きゃ!鯉伴さん!」




天気のいいある日の朝。



若菜は洗濯物をとりこんでいたが、鯉伴からそれをとめられてしまった。




「若菜、何度もいってるだろ!こうゆうことは首無たちがやるから。」


「でも、動いてないと落ち着かなくて・・・。」


「ダメだ、若菜は休んでろ。」



若菜のお腹には、奴良組の後継ぎとなる赤子がいる。

先日まで目立たなかったお腹も、今ではすぐに分かるほど膨れてきた。




しかし、そんな大事な身体になっても若菜は家事をやめない。



そんな若菜にもしものことがあったらと、鯉伴は心配でならないらしい。



「また、とられちゃったわ。」


「いいから、お前は部屋で休んでろ。」


「はーい。」





そして夕方。


部屋に若菜がいないので、またかと思い探してみると鴉天狗が買い物に行ったと言っていた。


「買い物?!」


「私共も全力で止めたのですが・・・。」


そう言っている間に鯉伴は外へ駆け出していた。


しばらく探してみると、向こうから買い物袋をもった若菜が歩いてきた。



姿を消し、後ろから近づき買い物袋をひょいと取り上げると、驚いた若菜の顔がこちらをみた。



「鯉伴さん!」


「若菜、お前なぁ。」


「ねぇ、見て鯉伴さん。商店街の皆さんがね無事に出産できますようにってお花くれたの!」



色とりどりの花を見つめ若菜は幸せそうに微笑んだ。



「若菜。」

「はい?」

「頼むからこれ以上、心配かけないでくれ。」

「心配かけることしてないわ、鯉伴さんこそこれ以上、私の仕事とらないでください。」



そういえばと思い返してみると、首無や親父からも、若菜がかわいそうと言われたことがあった。


「わかった。けど、条件がある。」

「条件?」

「必ず俺の目が届くところにいてくれ。」



そうでもしないと心配でしょうがない。



「まったく、鯉伴さんは過保護ね。」


呆れたように若菜が呟いた。


「私だって十分気をつけてるわ。それに・・・。」






そう言って、若菜は自分のお腹を撫でた。





「この子は私と鯉伴さんの子ですもの。

そんなに弱くはないわ。」





とても愛おしそうに見つめながら。




鯉伴は初めて、若菜の「母親」としての顔を見た。

今までの少女の可愛らしい笑顔とは違い、強く、優しい笑顔だった。





若菜は、もう立派な母親だと実感した。





「・・・。」

「鯉伴さん?」

「若菜。」

「はい。」

「いや、やっぱなんでもない。」

「ふふ、変な鯉伴さん。」




頼むから


もう、これ以上ーーー、







好きにさせないでくれ。









あとがき→
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ