monohara

□きみと100%
1ページ/2ページ

千馗は、靴箱の前で一人佇んでいた。





確かに、朝から周りの空気はいつもとは違う空気が漂っていた。
しかし、いちいち気にしてなどいない千馗は、いつものように羽鳥家を出て、いつものように登校した。
「すっげぇなあ。七代!」
千馗の横を通り過ぎていくクラスメイトは、その光景を見る度に同じ賛美を千馗に浴びせる。
千馗の靴箱の中には、ラッピングされた大量
の箱や小袋、手紙などが靴を潰す勢いで敷き詰められ、蓋のない下駄箱な為、手前にある袋は触ったら落ちそうだった。
それを見ながら、スーパーの野菜の袋詰めを頑張る女性の光景が目に浮かんだ。
不愉快、とまでは言わないが、若干傍迷惑だと心の奥底で思う。
「よっ」
大きな溜息をついた直後、軽快な声と共に背中を思い切り後ろから叩かれた。
横に顔を向けてみれば、そこにはお馴染みの顔があった。
「モテてんなぁ、相変わらず」
「燈治」
「確かクリスマスもこうだったよなぁ?」
壇の一言に、思わず千馗は眉間に皺を寄せる。

去年の12月25日。
24日に引き続き、鴉之杜にとっても千馗にとっても大変な一日だったのだが、そんな事を知りもしない生徒達は普段通りの終業式とクリスマスを迎える。
その一貫となってしまったのか、千馗の靴箱には今日と同じ光景があった。
千馗は世間的な行事に関心が無いし、あの状況下でクリスマスなど正直眼中に無かった。
しかし、靴箱や机の引き出しに沢山の箱や小袋が入り乱れ、その光景を遠くから眺める女生徒の姿が多く見られた。
女性からの贈り物を無碍にも出来ず、壇に手伝ってもらって事なきを得たが、まさか同じような事が再度自分に襲ってくるとは予想していなかった。
「これを俺にどうしろって言うんだ?」
「普通に貰っておけばいいんじゃねぇか?」
今日は2月14日。
渡すタイミングを見計らっている女子生徒、いつ渡されるかと落ち着きのない男子生徒が、朝から目立っていた。
特に気にもしていなかったが、まさかこんな現状が自分に待ち受けているとは思いもしなかった。
「こういうのは本命に渡せばいいのに」
千馗のその言葉に突っ込みたくなった燈治だが、ふと思い出したように自分の鞄から大きな紙袋を取り出した。
「まぁまぁ、取り敢えずこれに入れて教室に行こうぜ」
「…お前、なんでそんな物持ってきてるんだ?」
「相棒のモテっぷりと本人の無自覚さは十分承知してるからな、俺が気を利かせて持ってきてやったんだ」
自信たっぷりに胸を張る壇に千馗は少し呆れ気味になる。
「暇だな、お前」
「うるせぇよ」
壇はそう言いながら、千馗を横目に持って来た紙袋に靴箱に入っていたプレゼントを詰め込んでいく。
「まさかとは思うがわざわざこの為にこの時間に登校したわけじゃないだろう?」
いつも朝のHRどころか授業が始まっても姿を見せないくせに、今日はやたらと早い。
「まあ、それもある」
「それも?他に何かあるのか?」
千馗はそう投げかけると、壇は笑うだけで答えなかった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ