オリジナルファンタジー長編小説

□Night×Cross 第三章珊瑚
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第三章珊瑚

 ワイドハイツ男爵の客船を襲ってから数日後。海賊ナイトクロスは宝島を目指して、アデナ海の東に船を進めていた。風を受けるのは白い帆。海賊船とバレてはまずいので、昼間は擬装用の帆を張っている。
 その帆の下で、地図とにらめっこしている長身の男が一人。鍛えられて程よく引き締まった体つきをしていて、髪は見事な漆黒。長い前髪で隠された童顔はよく見えないが、深い青の瞳は出会った人々に強い印象を与える。常に光を持っている、強い瞳である。
「ずーっと見てるんだな、それ」
 彼の後ろからひょっこり顔を出したのは、小柄な少年だ。短く切られた髪は太陽に輝く金色、興味津々に地図を覗く円らな瞳は宝石のような翠色をしている。
「なんだ、カザトも見てぇのか?」
 カザト、そう呼ばれた少年は頷いて、男の前にやってきて改めて地図を覗き込んだ。片手に布巾を持っているのは、少年がこの船の専属コックだからである。
「ヴォーテクス、宝島はこっちで合ってるんだろう?」
「あぁ、地図によるとな。……うまそうな匂いすんな、お前」
「えっ?」
 いきなり顔を近づけられてそんなことを言われたものだから、カザトは彼―船長ヴォーテクス―から勢いよく離れた。カザトの顔は耳まで赤くなっており、明らかに動揺している。
「ふっ、服に料理の匂い染み付いてんだから、ああっ、当たり前だろ?」
 焦っているカザト見て、ヴォーテクスはニヤリと口の端をあげた。そして、何を思ったのか、カザトの肩に腕を回し、小さく耳打ちをする。
「なに焦ってんだよ、『お嬢ちゃん』?」
「ヴォーテクスッ!」
 カザトが大声で叫ぶと、近くにいた仲間たちが一斉にこちらを振り返った。またしても、カザトは赤面してしまう。これでは完璧にヴォーテクスの思惑通りである。こうなったら、もはや怒る拳を震わせて押し黙るより他ない。
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