オリジナルファンタジー長編小説

□Night×Cross 第六章真実
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第六章真実

 よく晴れた午後。白い帆に風を受けて進む、偽装した海賊船。海賊ナイトクロスはスプレンド伯爵所有の貨物船から奪った宝を売ってしまうために、次の港を目指していた。
 そんな、アデナ海最強の海賊船に、一人だけ不自然な船員がいた。
「カザト!」
 名を呼ばれ、甲板で海を眺めていた少年が振り返る。その顔はまだ幼く、体つきも華奢である。加えて、美しい金色の髪と翡翠のような瞳まで備えていて、とても海賊には見えない。
「なんだ?ヴォーテクス」
 問われて、ヴォーテクスはカザトに歩み寄った。その顔には何かを企んでいる笑み。カザトはちらりと彼の表情を見ると、すぐに海に視線を戻して、長い長いため息を吐いた。
いつもと違う少年の様子に、ヴォーテクスも少し驚いて尋ねる。
「どうしたんだ?えらく長いため息だな」
 いつものように遊ばれなかったことに安心して、カザトはヴォーテクスの方へ向き直った。しかし、やはり浮かない顔をしている。カザトはため息混じりに言った。
「……嫌なこと、思い出したんだ……」
「嫌なことは、人に言っちまったほうが楽になるぜ?聞いてやるから言ってみな」
 ヴォーテクスが真剣に心配している。カザトが落ち込んだ様子で、肩をがっくりと落としてしまっているからだ。少年はぽつりぽつりと語り出す。
「思い出したくなかったのに、思い出しちゃったんだ。亜沙華のこと」
「亜沙華?」
「そう、亜沙華の珊瑚亭。エルダさんと飲み比べをした次の日だよ……。ラワカーナと蒼牙の奴が、『お前を一人前の男にしてやる!』とかなんとか言って、俺を、俺を珊瑚亭のお姉さんたちのいる化粧部屋へぶち込んだんだ……」
 カザトの声色がだんだんと怒りに変わっていく。だが、話を聞いているヴォーテクスはなんだか楽しそうである。さっきまで心配していたのが嘘のような変わりようだ。
「ほぉ〜、そいつは面白い」
 などとヴォーテクスは呟き、ニヤリと笑みを浮かべた。一方、カザトは話しているうちに封じていた怒りが沸々と湧き上がってくる。
「面白いもんか!お姉さんたちは皆着替え中だったから、こっちは冷や汗かいたんだぞ?それに、怒られるかと思って急いで謝ったら、“可愛いわねぇ、ちょっと遊んでいかない?”っていきなり腕引っ張られるし!」
「ハハッ!それで、お前、どうしたんだよ?」
 カザトの苛立ち大爆発を軽快に笑い飛ばし、ヴォーテクスが尋ねる。カザトは握った拳を震わせてヴォーテクスを睨みつけた。
「どうもこうもあるもんか!に、にに、逃げるしかないだろう?そ、そういう時は……」
 カザトの顔がほのかに赤くなる。きっと珊瑚亭の妖艶なお姉さまたちに、やたら色っぽく誘われたんだろうな、とヴォーテクスは予想した。この少年、船では仲間に遊ばれ、港では酒場の女たちにまでからかわれて遊ばれている。その場面を想像し、彼は腹を抱えて笑い出した。
「笑うなヴォーテクス!」
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