オリジナルファンタジー長編小説

□Night×Cross 第八章出航
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第八章出航

 ユトア王国の南に位置するティテ領は、年に一度の祭りで騒がしくなっていた。人々は皆、はしゃいで船の屋台を見るために家から通りへ出てくる。
 しかし、そんな祭日にじっと動かずにいる者たちもいる。豪華な住宅地の一番大きな屋敷。そのよく手入れされた庭に忍び込み、彼らは植木の陰に身を潜めていた。
「どうしてここにナイトクロスの情報があるの?バッカスさん」
 小柄な少年が、声を潜めて太った髭もじゃの男に尋ねる。バッカスと呼ばれた太った男はニヤリと笑い、自信満々に答えた。
「どうしてって、そりゃあフェスの坊ちゃん。ここにヴォーテクスの親父がいるからさ」
 へぇ〜と、小柄な少年は驚いて、屋敷の窓を覗き込む。だが、少年の隣に隠れている金髪の青年は、目を伏せて考えを巡らせた。
「ここは、スプレンド伯爵の別邸……。旋風は貴族だったのか?」
「ま〜、半分な」
 『半分』。つまりは、貴族と平民の子供。平民ながら貴族と結婚した者は王国にも数えるほどしかいない。しかも、スプレンド伯爵といえば、王国内でも高い地位と権力を誇る貴族だ。そんな有力貴族と結ばれた者など、一人しかいない。
「まさか、エドワード=カイム!?」
「察しがいいねぇ。さすがはユーグの兄さんだ、ガハハハ」
 ユーグの推察に、バッカスは大口を開けて笑った。忍んでいる身でありながら、大声をだしたバッカスの口を、慌ててフェスが塞ぐ。
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