オリジナル小説
□夕焼け空 一番星
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部活が終われば、空はもう茜色。
真っ赤な太陽が一日の役割を終えて、西の空へ沈んでいく。
校門を出て、自転車を手で押しながら、家への道を歩く一人の女子高生。
「ったく、あたしは一人で平気だ〜って言ってんのに」
いかにも、だるそうに言いながら、竹刀の入った袋を肩に掛け直す。
「駄目ですって!先生が言ってたじゃないっすか、最近不審者が多いから絶対女子生徒は一人で帰っちゃいけないって」
反論するのは、彼女の家の近所に住んでいる剣道部の後輩。
一年ながらレギュラーを獲得している、結構有望な奴。
とは言っても、隣を歩く彼女に勝てた試しはないのだが。
「部長で、有段者で、県大会優勝者のこのアタクシが、そんじょそこらの変態野郎に負けるもんですかい」
ニヤリと不敵に笑って見せる彼女。
しかし、後輩は防具の入った袋の紐をぎゅっと握り締めて、彼女を睨む。
「ふざけないで下さい。まったく、俺は真面目に言ってるんすよ?噂じゃ、その変態さんとやらは、身長2mの大男らしいし。外国人とかだったら、体格からして違うじゃないっすか」
急に説教くさくなった後輩に、彼女はため息を漏らす。
あんたはあたしの保護者か?心配のしすぎだ。
自分は『強い女』で小、中、高校二年の現在まで通して来たというのに。
そんな心配、クラスの男子の誰もしやしないのに。
女子に至っては、
「ねぇ、もし一緒にいる時に私が襲われたら守ってくれる?」
なんて、頼りにされる始末。
頼られるのは嬉しいから、おうよ!とか返しちゃう自分だけど、それもなんだかなぁ〜。
取りとめもないことを頭に巡らせながら、ふと道路の反対側の歩道を見つめる。
高校生のカップルが、手を繋いで仲良さそうに何か話しながら歩いている。
制服は隣町の高校のものだ。
(恋愛、ねぇ。まさに『青春』ってか?)
自分は、部活一筋、剣道命、目指せ全国まっしぐら、だからなぁ。
世の中、自分みたいな女ばかりじゃない。
むしろ乙女チックな女子高生の方が大半だろう。
「そういう高校生ライフもあるっちゃあ、あるんだよなぁ〜」
「何言ってんすか?先輩」
考えていたことがうっかり漏れていて、後輩に呆れた顔をされた。
「別に、特に深い意味などないのだよ。気にしないでくれたまえ」
「何すかソレ」
ふざけた口調で言い返して、ふと、後輩の右手を見る。
彼の左手は、防具を担ぐ紐を握っているから塞がっている。
しかし、右手は空いている。
日々竹刀を握って素振りを繰り返すタコだらけの手は、いったいどんな感触がするのか。