オリジナル小説

□帰り道 天の川
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 彼の好きな女性歌手の歌が流れて、彼女は携帯電話を取った。

「京子(きょうこ)さん……」

 聞こえてきたのは、恋人の声。
 彼女は只今フライパン片手に夕飯の準備中。
 ちょっと声が聞き取りづらいが、彼のそれが酷く落ち込んでいることはすぐに分かった。

「おう!どした〜?」

 何か良くないことがあったのだろうと予想して、彼女は努めて明るく返事をする。

「これから、飲みに行きません?」


 京子は夕飯の準備を終え、家族には彼と外食してくることを告げて家を出た。
 二人が待ち合わせをしたのは、近所の居酒屋である。
 
 会ってみると、やはり彼の表情は暗く、小さくため息を吐いていた。

「で?何かあった?星(せい)くん」

 テーブルの上にはビール。
 それを彼のジョッキに注ぎながら、京子は尋ねた。

「昨日、徹夜で報告書仕上げてたんですよ……」

 言いながら、ジョッキの中身を一気に飲み干した星。
 それを見て、これは相当落ち込んでるな、と京子は察する。

「うん、それで?」

 空になったジョッキにビールを再び注ぎつつ、京子が続きを促す。
 星は視線を手元に落としたまま話を続けた。

「報告書自体は出来たんすけど、午後になって、急に、睡魔が……」

「そりゃ、徹夜明けじゃ眠いよな〜」

 話しながらどんどんビールが星の口の中へと消えていく。

「で、お、俺は……あろうことか、契約書を、誤って、シュレッダー……に……」

 なんだか声が震えている星。
 彼の言葉に、彼女はしばし沈黙したが、結局思ったままを口にした。

「…………なんか、漫画みたいだな」

「実際にやっちゃったんすよ!!先輩!!」

 空になったジョッキをテーブルに叩きつけて星が叫ぶ。
 呼び方が昔に戻ってるあたり、もうかなり酔いが回っているようだ。
 普段飲まないのだから、仕方ない。

「課長だの部長だの、取引先だのに謝って謝って謝り倒して!やっとなんとかなったんすけど……。はぁ〜俺、間抜けすぎる……」

 深いため息を長々と吐き、星は項垂れた。
 そんな彼の肩を軽く叩きながら、京子はにこやかに言う。

「なんとかなったなら良し!!失敗は成功の素だ!!元気出しなよ、星くん。あんたが頑張ってるの、分かってるから」

「う〜、京子さぁ〜ん」

 感激とアルコールで潤んだ瞳で、京子を見つめる星。
 なんとか元気になりそうだと感じて、彼女は彼の手から素早くジョッキを取り上げた。

「おっと、これ以上は飲むなよ。危険だから」
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