オリジナル小説

□悲愛
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――世は、戦国乱世。


 望まなくとも一国の主の娘として生まれたこの身は、ただ戦の為の道具として、国の為に、国を守らんが為の策として、見も知らぬ男に嫁がされた。

 愛など望んではいなかった。
 一国の主たる父にもそのようなものを与えられた覚えはない。
 己は道具。
 道具ならば、せめて道具の役目を果たすまで。
 それが、道具として生まれた者の務め。
 そして、誇り。

 だがしかし、父は同盟を結んだ筈のこの国を、娘を嫁がせた国を裏切った。
 他の勢力と手を組み、大軍勢で領地へ攻め入ろうとしている。

「我が国は小国故に、切り捨てられる覚悟はあった。同盟に期待などなかったが、そなたには辛い思いをさせてしまうな」

 この国の主は、夫は、消え入りそうな小さな声で、そう言の葉を紡ぐ。
 頬を撫でる大きな暖かな手。
 きっと刀など持つには相応しくない優しい手。
 道具として嫁いだ先に待っていたのは、予想もしない暖かな愛情であった。

 夫は人に慕われる人物であった。
 優しい。
 この乱世では優しすぎるほどの人であった。

「許せ」

 短い謝罪に、それに籠められた数多の意味に、小さく頷くことしかできない。
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