オリジナル小説
□平原の魔法使い
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涼しげな風が吹き抜ける、黄昏時の大草原。
そこを上から見下ろせば、何もかもが赤く色づいている。
土も、草も、人も、羊や山羊たちも、世界は鮮やかに染められる。
馬に乗った遊牧民に追い立てられ、家畜たちは集落の真ん中の柵の中に集められた。
テントでぐるりと囲まれた中に、何十頭もの羊や山羊が収まっていく。
家畜を追う為、馬に乗った男たちや子どもたちが集落に帰っていくのが見える。
その中に、一人だけ民族衣装を着ていない若者がいた。
上から眺めれば、他の人間より幾分背が高いのが分かる。
羽をはばたかせ、その長身の若者に向けて、ゆっくりと高度を下げることにした。
その若者の肩に降り立ったのは、彼が集落に辿り着いたのとほぼ同時であった。
「おぅ!お前も今帰りか?ダンディライアン!」
若者は二カッと笑うと、虹色の長尾を持つ黄色の鳥――ダンディライアン――を撫でた。
少しだけ鳴いてみせると、ダンディライアンは涼やかな目で若者を見つめた。
「上空から貴様を観察していたが……なんだあのザマは」
大人の男の声で、ダンディライアンが尋ねる。
「『あのザマ』?どの『ザマ』だ?」
首を傾げると、若者の黒い癖っ毛がダンディライアンの顔にかかる。
ダンディライアンは、それをうっとおしそうに避けると、怪訝な表情を浮かべた。
『どのザマか?』などと惚けているこの男。
わざとボケているならまだ良い。
だがこれがわざとではなく、本気で分かっていないから性質が悪くて困る。
「お前の追った羊どもは、どんどん集落から離れて行ったではないか。集めるのが仕事のはずが、散らしてどうする。……エリオット、貴様はつくづく羊飼いには向かぬな」
フンと鼻で笑うと、若者――エリオット――は怒るでもなく、愉快そうに大きな笑い声を上げた。
ダンディライアンを撫でていた手で自分の後頭部をガシガシと掻くと、その癖っ毛が余計に酷くはねる。
「ハハハッ!確かに、俺は羊飼いにはなれんなぁ!ダンディの方が向いてるんじゃないか?今度やってみろよ」
(こやつ、本物の阿呆か)
鼻で笑われ小馬鹿にされているのに、それを肯定したうえで笑い飛ばすとは。
馬鹿にされているのだという自覚がないのか?
いや、自覚があるうえでこの返答ができるなら、大物かもしれない。
しかし、ダンディライアンには、未だその見極めができずにいた。
むくりと羽を膨らませ、ダンディライアンは威嚇の姿勢をとる。
「言うに事欠いて、我輩に人間の真似事をしろと?」
「うん、真似事。たまにはいいんじゃねぇ?俺の代わりに仕事してくれると助かる」