短編

□副長は心配性
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『あれ、土方さん。どうしたんですかそんな怖い顔して。般若みたい。』



屯所の廊下を歩いていると、まさに鬼のような顔をした土方さんと遭遇した。



「…誰のせいでこんな顔してると思ってんだぁぁあ!」
『う、わぁぁあ!』



こうして、私と土方さんの鬼ごっこは始まった。



『なんで追いかけてくるんですかぁぁあ!』
「お前が逃げるからだろうが!」
『先に追いかけてきたのは土方さんじゃないですかぁぁあ』



遠くで総司くんが楽しそうにこっちを見ている。
笑ってないで助けてくれぇぇえ

はじめ君がため息をつきながらこっちを見ている。
呆れてないで助けてくれぇぇえ

やっぱり土方さんから逃げられるわけもなく、私はあっという間に捕まり、壁に追い詰められる。
私の両脇には彼の腕があり、どうやら逃げられないらしい。



『…わ、私…何かしましたかねぇ…?』



恐る恐る土方さんを見上げながら訊ねると、彼は深いため息をついた。



「…お前なぁ…」
『…は、はい…?』
「…今日の買い出しの時、風間に会ったらしいなぁ…?」
『な、なぜそれを…!』



確かに今日、千鶴と買い出しに行った先で風間千景に遭遇した。
でも、千鶴に危害はなかったし、私も怪我はしていない。



『…ち、千鶴はちゃんと守りましたよ…?』
「俺ァんな事を言ってんじゃねぇ!!」



急に怒鳴られて、つい私の肩がビクッと揺れる。



「…お前は…油断しすぎだ。」
『え…』



さっきとは裏腹に静かに話す土方さん。顔は下を向いていて表情が伺えない。



「無防備だっつってんだよ。…いくらお前だって、1人で鬼に敵うはずねぇだろ…」



私の目を見てそう言う土方さんは酷く悲しそうな顔をしていて、私は無意識に彼の頬に触れた。



「…心配なんだよ。…お前が俺の知らないところで死んじまうんじゃねぇかって…」



土方さんは彼の頬にある私の手に自分の手を重ねる。
こんなに瞳の奥が揺れている彼を見るのは何年ぶりだろう。



『…ごめんなさい…』



そんな彼に、不安にさせてしまった事に対しての申し訳なさと、心配してくれた事に対しての嬉しさが同時にこみ上げてきた。

私は土方さんの首に両腕をまわし、抱きついた。
彼も優しく抱きしめ返してくれる。



「…お前の体温を感じると、安心する…」
『…土方さんって…甘えたさんですね』
「うるせぇ…お前にだけだ。」



拗ねたように言う土方さんが可愛くて、私は彼に軽く口づけた。



「…!」



唇を離せば、面食らった顔をした土方さんと目が合う。



『可愛い…』



思わず口を突いた一言で、土方さんの目付きが変わった。



『(あ、やば…)』
「俺が…可愛い…?」
『え、や、これは…』
「上等だ。その言葉、後悔すんじゃねえぞ。」



ニヤリと口角を吊り上げる土方さんは、こんな時だけどかっこいいと思ってしまった。



『んっ…!』



しまった、と思った時にはもう遅く、噛みつくように重ねられた唇。
すぐに彼の舌が侵入してきて、思うままに掻き回される私の口内。



『んん…は、』



息が苦しくなって唇を離そうとしても、私の後頭部と腰をがっちりと固定している土方さんの手のせいで叶わない。



「はぁ…名前…」



あ、今の腰にキた。
熱くて長い口づけと彼の甘い声によって私の脚には力が入らなくなっていた。



『は、土方さ…』



ちゅ、と音をたてて離された唇。
私は必死に呼吸を整える。
そんな私とは裏腹に、余裕の表情を見せる土方さん。



「…これに懲りたらもう俺に可愛いなんて言うんじゃねぇ。心配もさせるな。」
『そんなぁ…』
「あと、」
『はい?』
「今の顔、絶対に他のやつの前ではするなよ。…そんな色気のある顔、俺だけのもんだ。」



耳元でそう囁かれ、私の顔は一気に熱くなった。




副長は心配性

(…土方さんのすけべ。)
(なんだ、まだ足りねぇのか。)
(ちが…!)


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