想いの系譜図

□第1章
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(初めての実地任務 1)


「そっちへ行ったぞ!」
「はい!」
「了解!」

魔物の襲撃を知らせる声に、若い男性と女性の声が木々の間に木霊する。

現れた狼のような魔物に、剣と術で攻撃を畳み掛けたと思うと、一瞬の後に勝負は決した。

二人はふぅと息を漏らすと、剣を鞘に納める。

男性の方は蒼と水色を基調にしたインナー、白いパンツ、白いジャケットをはおり、腰には赤い柄の剣を携えていた。

少し茶の混じった赤い髪は耳にかかり、襟足はジャケットの襟に隠れている。

身長は170センチは超えているだろう。年齢は20才前……というところだろうか。

彼の名は、アスベル・ラント。
ラント領主アストンの長男で、騎士学校では剣士として勉学に励んでいる。




女性の方は若草色の短い丈のキャミソール、男性と同じタイプの白のパンツと白のジャケットを羽織っている。

トップの部分は明るい茶色の髪で、毛先にいくほど白くなっている。

風に揺れる髪は細く、クセはなく真っ直ぐだ。


同じように腰に剣をぶら下げているが、男性の物と比べて随分細身の剣だ。


互いのジャケットの腕にはそれぞれのインナーと同じ色の模様がしつらえられ、全体的に清潔な印象を与える服装だった。

彼女の名はアリーシャ・ロゼリア。
ロゼリア領主アスラの長女で、騎士学校では剣士兼魔術師として指導を受けてきた。




そこへ土を踏みしめる音が響き、一人屈強な体格の男性が現れた。

軍服のような上着をはおり、肘まで腕まくりをし、胸元は大きく空いている。

黒のレザーグローブを付けており、その手に握られている武器はブーメランのように刃が折れ曲がっている。

年の頃は40前後、というところだろう。

「初めての実地任務でどうなるかと
 少し心配だったが、この分なら
 大丈夫そうだな」


どうやら年上の男は、彼ら二人を指導する立場にある人物のようだ。

彼の名はマリク・シザース。
アスベルとアリーシャを指導する教官である。


マリクの声にアスベルは左手を掲げ、騎士団の型をつくる。

「はっ。マリク教官の
 日頃のご指導のおかげです」

ピシッを背筋を伸ばし、かたい口調で答えるアスベルにマリクは苦笑いを返した。

「そう固くなるな。実地と言っても
 やる事事態はいつもとそう変わらん」

「はい!」

「そうよ、アスベル。
 今からそんなに緊張してたら、
 もたないわよ?」

マリクと同じように肩を竦めるアリーシャを、マリクが半眼で睨んだ。

「お前はもう少し緊張感を持て」

「持ってますよ?
 人並み程度には、ね」

にっこりと笑うアリーシャに、マリクは盛大に溜息を付き、アスベルはくすくすと笑った。

アスベルの肩の力が抜けた事を視界の隅で捉えたマリクは、アスベルに向き直った。

「よし。任務の内容を
 もう一度確認しておくぞ。

 オレ達がここへ来たのは、この森を
 抜けた先にある村を調査するためだ。

 村の名はオーレン。
 人口は約五十名。
 ほとんどが林業に従事。

 その村の住人全員が数日前こつ然と
 姿を消したと王都の騎士団に連絡が
 入った」

村の名前と、そこで起きた出来事にアスベルがはっと息を呑み、アリーシャを見つめる。

「オレたちに課せられた任務は
 先に現地入りしている騎士団の調査
 に協力する事だ」

「わかりました」

「どこで何があるかわからん。
 道中は周囲の状況にも気を配れ。
 確認は以上だ」

マリクはふぅと息を吐き出すと、アリーシャに視線を向けた。

話を目をつむって聞いていたアリーシャが、ゆっくりと目を開ける。

そしてマリクとアスベルの気遣わし気な顔に気づくと、ふわりと微笑んだ。

「私の事なら心配ご無用。
 この目で見ておきたかったので、
 今回の任務は丁度良かった」

アリーシャはそう言うと、再びにっこりと笑う。

「さ、行きましょ?」

アリーシャはそう言うと、先頭に立って木々の間を歩き始めた。

 
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