想いの系譜図

□第4章 ラントの為に出来ること
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(本音しか言わない)


ラントが戦場になる……!
なんとしても、ヒューバートを話し合いの席につかさなければ……!

焦る気持ちがアスベルの歩幅を広くする。

「ア、アスベル……!
 ちょっと、待って……!」

息をきらせた声にハッと振り向くと、シェリアが不安そうなソフィにスっと視線を移す。


冷静さを失えば、
大切なものを守れないわよ……

耳によみがえる声に、ギリッと奥歯を噛み締める。

「落ち着けアスベル。
 お前の焦りは、
 お前の背を見ている者を不安にする」

「……はい、
 すみません、教官」


俺は気を取り直すように、ソフィの頭をポンポンと撫でた。

そういえば……

「ウィンドル中を回ったのに
 家や家族、友人さえも
 見つけられないなんて……」

未だに、ソフィの家族を見つけられないという現状に歯噛みしたくなる。

結局俺は、何も出来ていないんじゃないか、と……

「大丈夫だよ。
 わたしはアスベルやシェリア、
 パスカルと一緒に
 いられるだけでいいの」

「しかし……」

言い募ろうとする俺の耳に、パスカルの声が飛び込んできた。

「ソフィは良い子だね〜」

パスカルの言葉に嬉しそうに笑うソフィの表情に、翳りは見当たらない。

そうだった……
ソフィは……

「……そうか。
 お前は強がりなんて言わないよな。
 それが本音だと思っていいんだな」

「うん。
 でも……アリーシャがいないのは……
 不安……」

ソフィはそう言うと、俺の手を握る。

「アリーシャ、いつもこうして
 手を握ってくれたの。

 なんでか分からないけど……
 アリーシャがいないと不安になる……

 ねぇ、アスベル。
 アリーシャは一緒にいられないの?」

真っ直ぐな眼差しに、アスベルは肩を竦める。

「俺にも……分からない。
 ソフィは、本当にアリーシャのことが
 好きなんだな」

パスカルと会ったときだっただろうか……
誰が一番好きかと尋ねられたソフィの答えは、「アスベルとアリーシャ」だった。

「一緒に行けると、いいんだけどな」

うん、と頷くソフィにパスカルがニヤリと笑みを浮かべた。

「そんなの、あたしがいくらでも
 代わってあげるのに〜!

 そろそろ解禁ということで。
 触らせて〜」

両手を前に突き出してニヤニヤと笑うパスカルに、ソフィが身構える。

「イヤ」

臨戦態勢の一歩手前という風情のソフィに、アスベルが肩を落とした。

ソフィは本当に……
本音でしか表現しない、な……



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ラントへ出発する前に旅の支度を、とアスベル達は宿屋へ立ち寄っていた。

女性陣の支度が終わるのを所在無げに待っていたアスベルは、隣に立つマリクに声をかけた。

「教官……
 リチャードの言っていた事を
 どう思われますか?」

ストラタ軍が進駐しているラントを攻める……そんなリチャードの考えをどう思うのか……

そう尋ねた俺に、教官は顎に手を当てて口を開いた。

「もっともな考えだろう。
 ストラタが撤退すれば
 ウィンドルも落ち着くだろうしな」

確かに……国政を担う者としては当然なのかも知れない。

だが……

自分の中ではまだ『リチャード』としての記憶……特に幼い頃の彼の夢や想いが頭から離れない。

「俺 あいつの考えている事が
 わからなくなって……」

マリクは不安そうに俯く教え子をじっと見下ろした。


アスベルにとっては、そう……

アスベルにとって彼は『リチャード』であり、『国王陛下』ではない、ということなのだろう。


そして、陛下の変化に心が追いついていない、というところだろうか。


マリクは小さく溜息をつくと、あえてアスベルを睨みつけた。

「……確かに陛下は変わられた。
 だが オレを頼るな」

言葉を額面通りに受け取ってしまったのだろう。

アスベルが肩を落とす。

「……!
 ……そうですよね。
 すみません……」

まったくこいつは……

殿下に意見するほどの度胸を持ちながら、こんな風に、まるで失敗を畏れているかのように身を縮こませる時もある。

実直さと剛胆さを併せ持つ、珍しいタイプだとつくづく思っていたが、そういう面は全く変わっていないらしい。

ウォールブリッジの上でオレと刃を合わせた時の度胸は何処へ行ったのだ……

「お前はオレから卒業したのだ。
 それにオレなど、お前が頼るほど
 大層な相手ではない」

お前はオレから卒業し、その足で歩き始めたんだろう?

そんな想いを込めてみるが、実直さに阻まれる。

「……けど
 俺にとって教官は教官です」

いや……
ただ単に、頭が硬い……
という事かもしれんな……

「では頼るのではなく相談してくれ。
 一人の仲間としてな」

答えを求めるのではなく。
お前自身が答えを見つけ出すために、歩み出す力を得るために、相談できる仲間として……

そんなオレの言葉にようやく納得したのか、アスベルの顔つきが穏やかになる。

「教官……ありがとうございます」

そうして、学生時代から何度もそうしてきたように、俺に頭を下げた――――
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