菖蒲高校のアステリスク

□図書塔の眠れる司書
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紺野愛美は、籠の中の鳥だった。

小さくて、弱い鳥。

彼女はまだ、外の世界を知らない。



愛美の父、紺野蛍吐は、江戸時代から続く製薬会社の跡取りだった。

彼は、社長である父の秘書、樫本美良と恋に落ちる。

しかし、既に婚約者がいる蛍吐と、美良との関係は許されるはずがない。

それでも、美良を諦めきれなかった蛍吐は。

解雇された美良を追って会社を辞め、紺野の家を飛び出した。

二人は小さなマンションで新しい生活を始め、愛美が生まれるが、その幸せな暮らしは長くは続かない。

蛍吐の、そして愛美の人生が狂い始めたのは、愛美が一歳になった頃だった。



真夏日のある日。

美良は愛美を連れて買い物に出掛けた。

その帰り道、飲酒運転の車に突っ込まれ、咄嗟に愛美を庇った美良は命を落とした。

そして愛美は、脊髄損傷で左腕の感覚を失った。

しかし、悲劇はそれだけでは終わらなかった。



悲しみに暮れる蛍吐の元に、彼の弟から連絡が届く。

数年振りに本家の敷居を跨いだ蛍吐が見たのは、衰弱し、寝たきりになった父の姿だった。

不規則な生活が祟り倒れた父は、運ばれた先の病院で食道癌が発症していることが発見される。

しかも症状はかなり進行しており、余命は一ヶ月もないと診断されていた。

彼は蛍吐が帰ったその日、息を引き取った。

蛍吐に残されたのは、幼い娘と、社長という責任の重すぎる立場だけだった。



名家の御曹司として純粋培養で育てられた蛍吐の精神は、次第に病んでいった。

愛美が二歳になった頃。

蛍吐は突然、最愛の娘までも失ってしまうのではないかという恐怖に駆られる。

そして彼は。
愛美を屋敷に閉じ込めた。
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