沖土

□sikc
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もう嫌だ。
怖い。総悟…。止めてくれよ!





〜Sikc〜



「う゛〜…。」

最後の一枚を終えて1週間ぶりに部屋から消えた書類を呼びつけた山崎に渡すと文机のうえにつっぷした土方は、ここ最近一睡もしていなければほとんど食事も取っていない。
近藤の命令により今日は休暇となっているが、ささっと風呂に入って着流しを着ると、ケータイを取り出し、仕事関係のメールが来ていないか確認する。緊急時は電話だが、1ヶ月先の会談などはメールで送られてくる。
そして、スケジュール帳に書き込んでいく。
そんななか、土方を癒すメールがある。

「総悟…。」

沖田から送られてくるちょっとしたメールだ。
土方は疲れるとそれをみてほっとなる。

「会いたいなぁ…。」

生憎、沖田等一番隊は武州へと隊士を募集しに行っている。

「よし!」

仕事関係のメールがないことを確認すると折角の休日だ、と外へ出た。
ふらふらと歩く土方は川原の橋の下に座ってゴロりと草むらに寝転がりながら、ここで沖田に突き落とされたり、近藤が女を取り合って決闘したことなどを思い出した。
今、思い出すと笑えてくる。少しフッ、と笑みが漏れた。

「なにニヤニヤしてんですか、コノヤロー。」

途端に土方の表情が曇る。
土方の目線の先には銀髪に死んだ目の坂田銀時がいた。

「なんでお前がこんなとこにいるんだ。」
「なんとなく。お前こそなんでいるんだ。」
「気が晴れるように。こっちは書類明けでつかれてんだよ。」

土方が消えてくれ、とでも言いたそうに銀時を睨む。
そんな土方を気にせずに銀時はヘラヘラしながら土方の隣へ寝転がる。

「なんで隣くんだよ!」
「なんとなく?」

銀時はそういって土方に抱きつく。
とうの土方は顔を真っ赤にさせながらジタバタしている。

「離れろ!」

そこへ、土方が今、一番来て欲しくなかった人物が現れた。
栗色のさらさらした髪にえんじ色の大きな円らな瞳と白い肌で整った顔立ちの少年。

「そう、ご…。」
「なにやってんでさぁ。」

沖田の笑顔と冷たい低い声音が怖い。
土方は慌てて思い切り銀時をぶっ飛ばした。いきなりの不意打ちに「どぅわ!」という声と共に銀時がごろごろと転がっていく。

「総悟っ…なんで?」
「思った以上に隊士が集まったから予定より早く帰ってこれたんでィ。そんなことより…。」

沖田が、すごい勢いで銀時を睨む。だが、次の瞬間には笑顔になっている。その笑顔にはどす黒いものを纏っていて、殺気すら放っている。
そんな沖田に対して銀時はヘラヘラした態度で笑っている。
沖田は土方と軽く話すと直ぐに銀時へ視線を戻した。もちろん笑みを崩さずにだ。

「お久しぶりですねィ。旦那ァ。元気にしてやした?」
「あぁ。沖田くんも調子どう?」   ・・・
「そりゃもう…絶好調でさぁ。」
「そりゃよかった。んじゃ、俺はこれで。」

そう言って銀時はその場から離れた。ひとまず安心できたが本番はここからだ。
少し前に土方が旧友と笑いながら話していると、浮気だ、といって酷い目に合わされている。それは、今も鮮明に土方の脳裏に焼きついていた。だから土方は誤解されるようなことは全てやめた。旧友にも会わなくなったし、それどころか近藤や隊士などと二人きりでいることは無くなった。常に三人以上でいた。
なのに…。
今回の件で全てパーだ。

「総「土方さん。行きやしょ?」
「っ!」

土方の心配とは正反対で沖田はいつも通りだ。
だが、それが怖い。
土方はあの時もそうだったことを思い出した。一瞬殺気を感じたが直ぐにいつも通りになった。だが、屯所に帰るやいなや迂闊にも気絶させられて拘束された。

「わ、わりぃ。先に帰っててく…。」
「これ以上なにをするってんでさぁ。」

瞬間的に土方の身体が強張る。頭では「逃げろ」「危ない」と長年で培われた危機察知能力が赤信号を出しているのに怖くて体がびくともしなかった。
ただ、沖田にされるまま、屯所の俺の部屋に着くと気付いた時には遅かった。沖田が俺に注射でなにかを入れる。途端に意識が朦朧としてきて、意識が途絶える直前に見たのは沖田の悲しさと怒りの混ざった表情であった。

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