沖土

□一目見て築くもの=?
1ページ/1ページ

「…。」

また寝てる、と沖田は心の中で呟いた。
沖田の通う高校はAランクの上のほうで、沖田はその学校のナンバー2。
その上、幼いころから剣道を習っていて、国体では優勝するほどだった。
それは、人一倍勉強して、人一倍努力した結果。なのに、だ。

「こんな奴が1位ですかィ…。」

小さく呟く。
沖田の言う、こんな奴、とは授業中いつも寝ていて休み時間も寝ていて、昼休みはフラりといつの間にか何処かへいなくなっている。しかも、その生徒の顔を誰も見たことがない。
土方という名前しか分からない謎に満ちた人である。

「チッ…」

そんなことを考えていたらいつの間にかチャイムがなった。
沖田はすかさずノートを総復習をする。他の生徒がガヤガヤとなりはじめているが土方は寝ている。
そんな土方に多少…いや、かなりイラッとして復習が手に就かず更にイライラが増すという悪循環だ。


「同じ土方でもこんなにも違うもんですかねィ。」


文武両道の沖田はかなりモテる。女には困らないほどに。告白だって両手にあまるほどされた。
だが、今まで一人として付き合ったことはない。
それは、沖田には密かに想い人がいた。出会いは国体の決勝であった。
神道と呼ばれる沖田と試合をして、延長戦まで持ち込む程の腕前だった。
無論、最後の最後にギリギリで面が決まって勝ち、優勝したのだが。
そこまではいいとして、問題が2つあった。
1つは、何処の学校かが、分からない。
もう1つは…。


「男なんだよなぁ…。」


そう。
相手は同い年の男子高校生。名前を土方十四郎。
だが、帰りにみた女みたいなサラリとした黒髪と妖艶な目元。
一目惚れだった。


「あぁあ。会いてぇなぁ。」


呟いてみても復習は進まないしイライラする。
でも…。






──会いたいなぁ──

















「え?あの国体の土方さんが?」

「あぁ。十四郎くんのお父さんが私のしりあいでな。」

沖田家はかなり裕福な家庭で、母親は某有名大学の教授。
父親はかなり有名な大学病院の院長で手術をすればどんな病も十中八九治す腕前だ。
姉も居たが少し前に若くして事故で亡くなった。それでも、美人で優しくて何でもできる女性だった。
沖田もいずれは父親の病院をつぐのだ。


「同じ学校で同じクラスなんだろ?」

「え?あ、いや…。土方って同じ名字のいつも寝てる人は居ますが…。」

「なんだ、お前知らなかったのか。十四郎くんは頭も運動もできる文武両道過ぎて学校がつまらないらしくてな…。」


なんだ、そのエリート発言は。
そう思ったが沖田はなんとかその言葉を飲み込んで黙って笑った。


「まぁ、仲良くしてやれ。」

「…はい。」


一応返事をするが複雑な思いだった。
あの国体の土方さんとあの憎たらしい土方が同一人物だとはどうしても思えない。というか思いたくなかった。
そして、気付かなかった自分にイラついていた。
それが、嫌いだからなのか、好きだからなのかは分からない。
分かりたくもない。
頼むから夢であってくれ、と心底願った沖田であった。


「ふざけんな…。」

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ